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ライオン・キングのよるのレビュー・感想・評価

ライオン・キング(2019年製作の映画)
4.5
4DX3D吹替版を観てきた。もはや映画鑑賞ではない。ライオンキングを「体験」してきたって感じ。

サークル・オブ・ライフをバックに、風を感じながら壮大なサバンナにいる動物たちの間を抜けていく冒頭シーンは圧巻。難しく考えずとも、純粋に「多様性って、生命の繋がりって、なんて豊かなことなんだろう」と、自然と涙が溢れた。

「サークル・オブ・ライフ」これこそがこの作品のテーマ。なんという説得力なんだろう、と唸った。

また、自然の過酷さや美しさを、確かに目の前に見せてくれた。

例えば、シンバがヌーの大群の暴走に巻き込まれてしまう谷の高さ。ここから落ちたら、それは死んでしまうだろうという説得力。

荒廃したプライド・ランドと、ティモンとプンバァの住む自然豊かな場所との対比。

そして、魅力的なキャラクター。大好きな、久しぶりのシンバが、確かにそこにいた。手を伸ばせば触れられそうな、毛並みを確かめたくなるような、あまりにも実在感のある動物たち。

3Dや4DXというフォーマットで上演する意味を、これ以上ないほどに感じた。
「超実写化」は、作品のテーマを強調する点で、とても有意義なことになったと思う。

テーマの強調に関しては、オリジナル版にはなかった台詞によっても感じた(各台詞は、記憶が曖昧なのでニュアンスのみ)。

ティモンかプンバァが言う
「ここではルールや責任なんてない」
「人生なんて輪じゃなくて直線。直線の端に来たら終わり。」→「ごめん、ちょっと曲がってたかも。」

ザズーのムファサへの言葉
「昔やんちゃさだった子供が立派な王になりました」

これはもちろんオリジナル版からあるが、ムファサのシンバへの
「思い出せ、自分が誰かということを」

私は、昨今、「自分の信念を持ち、自分を喜ばせる為に、自分で得た能力によって自己実現する。必要があれば他人と関わるが、その場合は飽くまでも必要最低限に抑え、媚びずに、ドライに」という生き方が格好いいとされる風潮があると感じている。生まれ育った温かい田舎から飛び出して、誰の助けも借りずに一人で作り上げた価値こそが、アイデンティティであるのだ、と。


今作では「サークル・オブ・ライフ」を主張する。「偉大な王たちの星の下」に生まれたシンバ。子供の頃の無邪気な欲望通りに、「ルールも責任」も無視して生きると、ティモンとプンバァの暮らす成長のない世界か、スカーの支配する荒廃した世界になることを学ぶシンバ。亡き父の声を聞き、「自分が誰か」を思い出すシンバ。彼しか、プライド・ランドを統べる者はいない。


「生まれた星」こそがアイデンティティであって、「血」を大事に「役割」を全うする。堅苦しく感じてしまうし、前時代的な価値観のはずなんだけれど、圧倒的な画的な説得力を持つこの映画が言うと、色褪せていないし、臭くもない。

今、この映画をやる意味が、存分にある。


吹替キャストに関しては、賀来賢人と私の、大人シンバに対する解釈が一致したことが何より幸せだった。ハクナマタタでの大人シンバの歌い出し、「悩まずに」を聞いて歓喜に震えた。私が求めてたの、これ。やんちゃさを残したまま体だけは大人になってしまったシンバが見たかったの。

自分が何者かを思い出したシンバ。王になって貫禄をつけていくのはこれからでいいの。そうそう、大正解。我が意を得たり!という感じだ。

オリジナル版のイメージが強いだけに、彼の大人シンバには賛否両論あるよう。けれども、私は、賀来賢人は敢えてあのテイストを選択したのだと確信しているし、超実写版ライオンキング2もあると思って疑っていないし、賀来賢人は、2で王の風格を演じてくれるのだと信じている。

子シンバ熊谷俊輝。アニメ版の、決して巧いとは言えないけれど、愛嬌たっぷりで画にぴたっと合う中崎達也によるシンバのファンであった為に、どうしてもこぶしやビブラートを駆使した、技術的に「巧すぎる」シンバを愛することができなかった。ただ、本当に巧すぎることは確か。子役でこのレベルを見られたことが、ただただ幸福だし、嬉しかった。

江口洋介のスカー。デフォルメされていない自然な演技体が、「超実写版」の画にぴったり合った。大袈裟な表現をせずとも、貫禄は出るのだなと。格好よかったし、そして汚かった。

沢城みゆきのシェンジ。実際のハイエナの生態に基づいて改変されたというシェンジのキャラクター。沢城みゆきの、湿度を持った声質と怪演により、カリスマ性のある、一筋縄ではいかない魅力のあるキャラクターになっている。


『美女と野獣』実写化も劇場で2回観てしまった私としては、ルミエールのオマージュも嬉しかった。

「風下」というワードが、恐らく3回出てきた。意図的に出していると感じたけれど、その意図がまだ掴めていないので、考察を深めていきたい。


こんなに早く見てしまったことを後悔している。なぜなら、あまりにも好きすぎて、上演終了まで通ってしまう可能性があるから。
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