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リュミエール!のADULTVIDEOMANのレビュー・感想・評価

リュミエール!(2016年製作の映画)
4.7
何年か前に、日仏で「列車の到着」をスクリーンで見たことがある。それって滅多にない機会で、リュミエールの作品が「上映」されることなんて今日なかなかあるもんじゃない。「列車の到着」や「工場の出口」を知ってはいても、大きなスクリーンでそれを見る、という体験は、じつはいまのぼくらにはそうそうできるもんじゃないのだ。しかしこのドキュメンタリーができたことで、ぼくらははじめて映画を目にした人と似たような条件でそれらを体験することができる。よくぞ作ってくれました、という感じである。

セザンヌの「カード遊びをする人々」と同じ構図の作品や、ルノワールやなんかも引き合いに出され、画面を切り取るパースペクティヴのありかたの「近代絵画」との親近性なんかにも言及される。あるいは、プルーストの描いた当時のパリはこうだった、などとも語られ、19世紀から20世紀への変わり目の動く「情景」を目にすることで、そう、それこそ「失われた時を求めて」をぼくらはこれによってよりイマジナティヴに読むことだってできたりするのだ。単に映画の「はじまり」を目にして感動するだけでなく、文化的歴史的トリップまでもできてしまう。

そんなふうなナレーション解説付きなので、現代映画になれた目からすればともすれば単調でしかないワンシーン・ワンカットの50秒のフィルムを、アクション映画として、コメディ映画として、あるいは実験映画として楽しむことができる。実のところ初期映画を90分見続けるなんて飽きるんじゃね?と訝ってもいたが、そんな心配まったくなしで、あらためて映画を見ることの喜びにふるえることができる。

ちなみにぼくは立川志らくの吹き替え版で。これは日本語吹き替えのほうが、字幕に気をとられず画面に集中できるから良いかもね。欲を言えば、「ナレーション」ぽくしないで、「活動弁士」っぽい語り口を織り交ぜたりしてくれたらもっと楽しかったかも。
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