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ローラーボールのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ローラーボール(1975年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

近未来の平和な管理社会。人々は、抑鬱された暴力嗜好を、ローラーボールという殺人ゲームに求めていた。そのゲームの人気スター、ジョナサンは、そうした体制に疑問を抱き始めるが…。

ローラーボールの選手たちの時代を感じるユニフォームデザインや未来世界のセットのショボさに騙されてはいけない。
ユートピアへのアンチテーゼをテーマとしたSF映画の傑作である。

時は西暦2018年。世界はエネルギー、食糧、住居、輸送、通信、娯楽をそれぞれ司る6つの大企業によって統治され、飢餓や環境汚染、人口増加はおろか、戦争や犯罪すらも存在しない時代。

まさにユートピアが実現した社会だ。
そんな豊かな暮らしを送る人類が闘争心の唯一のはけ口としていたのが、ローラーボールという都市チーム対抗スポーツ。
競輪場のようなトラックで、アメフトとローラースケートをミックスした競技が展開される。
鉄球を相手ゴールに投げ入れると得点が入るというのが唯一のルール。
バイクで敵選手を轢こうが、敵選手を押し倒して殴ろうが、やりたい放題。
選手が何をしようと、死傷者が出ようと審判はペナルティを一切取らない。
これが世界を代表する人気スポーツとして市民に支持されているのだから始末が悪い。
まるで古代ローマにおける剣闘士たちの殺し合いの戦いが時空を超えて再現されている。
観客の熱狂ぶりが、人間にとって競争や闘争とは「本能」である…と訴えかけてくるのである。

ジョナサンのスポンサーである富裕層が、パーティーの最中に酔って強力な銃で大木を撃ち、燃え盛る炎を見て歓喜する場面はゾッとする。
暴力性を発散したい欲求に駆られた人々の挙動と、燃え尽きた大木との対比で、 人間の暴力的「本能」を描く印象的な場面だ。

ローラーボール自体は、流血や惨劇を見て興奮しそうな競技だが、残念ながらイマイチ盛り上がりに欠ける。
競技中の映像にはスピード感があるものの、同じような競技内容の繰り返しで、段々面白味が無くなっていく。

だが、それは「映画を見る貴方方は更なる刺激を求めてしまっている。競技を見て喜んでいる観衆と何ら変わりが無いですよ…」と、皮肉っているのだ。

圧倒的な人気を誇るジョナサンに危機感を抱いた統治者たちが、終盤は刺客を潜り込ませ、ルールを殺人ゲームに変えてまでジョナサンの抹殺を図る。
だが、死闘の末に刺客は全て返り討ちにされる。
敵チームのオーディエンスにまでエールを送られるようになり、統治者たちの時代が終わることを仄めかして物語は終わる。

本作はただのバイオレンス映画ではない。
カリスマの強烈な力による支配を望む民衆と、それを望んでいない主人公ジョナサンの対比が虚しい。

スポーツ選手への神格化に似た民衆の盲信、その主人公の人気を取り込もうとする陰謀の政治的スリラー、競技の暴力性と興奮によって統治者たち支配から民衆の目を背けさせるメディアへの風刺…。
実に様々な要素が盛り込まれている。

負けることが美しさを放っていたアメリカン・ニューシネマ全盛の70年代にあって、主人公ジョナサンが「勝ち続けること」が虚しさを放つ稀有な作品である。
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