MasaichiYaguchi

生きる街のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

生きる街(2018年製作の映画)
3.8
東日本大震災から7年、人によって「もう」か、いや「未だ」なのかと捉え方は様々だと思う。
この作品では大震災で人生が一変してしまった或る家族を取り上げ、一家の母である佐藤千恵子を中心にして2人の子供たち、そして彼女らの関係者を含めた群像劇で、未だ傷癒えぬ被災地や被災者の今を浮き彫りにしていく。
この作品では宮城県石巻市が主な舞台となっているが、津波が黒い濁流となって街を呑み込んでいくニュース映像を鮮明に覚えている私には、そんなことがあったのが嘘のように思える程、映画に登場する海は陽光に輝いていて美しい。
千恵子は産まれ育ったこの海沿いの街で、「あの日」から帰ってこない夫をあ諦め切れずに待っている。
その母の許を離れた2人の子供たち、佳苗と哲也は被災のトラウマに囚われ続けていて、人生に対して新たな一歩を踏む出せずにいる。
今ではバラバラになっている一家だが、かつて同じ街に住んでいて、帰らぬ父と関係のある人物の登場で大きな変化が訪れる。
この作品を観ていると、「血につながるふるさと 心につながるふるさと 言葉につながるふるさと」という島崎藤村の言葉を思い出す。
たとえ被災しても、そこで産まれ育った人にとっては故郷はいつまでも心の拠り所であるということ、7年経っても未だ被災地も被災者の傷も癒えていないということを、改めて東日本大震災の記憶と共に胸に刻んだ。