マクガフィン

ラッキーのマクガフィンのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
3.8
気難しい男ラッキーの全ての者に例外なく訪れる人生の最後の時間を描く。

小さな田舎街の中でミニマムな生活を送り続ける主人公の90歳の男ラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)。ルーティーンのような代り映えしない淡々とした日常の中に独自の頑固な立居振る舞いをユーモラスを交えて描かれることで、日々の日常と地続きな死について考えさせられる。

死を意識して気難しい男が弱気になって、偽善者になるかと思いきや、「死」について思いを巡らせることに。小さな街の日常の一部のようなラッキーのルーティーンの変化で、街の人たちとの心を交ぜ合わせるような温かかな交流になり、少しずつテイストが変わっていく模様が秀逸。
タバコを吸うことで生を弄んでいた思いきや、タバコがタナトスでヨガや牛乳を飲んで生を渇望するリビドーの相反で、答えが分からなかったクイズが「死」でリクガメが「生」のメタファーか。

映画的映像の抑揚を排除して、死に関連するエピソードを丁寧に積み重ねることで、独自で味わい深い一種の死生感は思慮深く、特に戦禍の中で微笑んだ日本人少女のエピソードは心に染みる。死に対する角度の見方で考え方も変わっていくことを、立ち去ったペットの亀のエピソードで思い知らされることになるとは。それらのエピソードの合間に何気ない日常の会話シーンが味を加える。

1世紀近い歳月から発せられる、達観したかのような名言、妙味のある歌声、はにかむ笑顔が忘れられなく、その重みは十分過ぎるほどの説得力に満ち溢れる。
死を宣告された時や、死を間近に感じた時に見返す作品になるだろう。