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ラッキーのutakoのネタバレレビュー・内容・結末

ラッキー(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2017年9月に逝去したハリー・ディーン・スタントン最後の主演作。信仰もなく未婚で一人暮らしの退役軍人、気難しい現実主義者のラッキー(90歳)爺さんが主人公。
朝起きて牛乳を飲み、ヨガをして、タバコをふかす。なじみのダイナーでコーヒーを頼み、バーでは常連客たちと他愛無い話しをしながら酒を飲む。そんなマイペースのルーティンで穏やかに余生を過ごすある日、人生に終わりが近づいていることに気付いた彼は「死」を意識しながら思いを巡らせる…。

日常は何も変わらないのに、自分の意識の変化で感傷的になったり、漠然とするものに無性に恐怖を覚え動揺する。けれど、かつて苦手だった暗闇が今じゃどうってことなくなってたり、辛いはずだった戦禍の体験も懐かしく笑い合えちゃったりもする。

ご近所のよしみでパーティーに呼ばれ楽しい雰囲気の中、始めは居心地悪そうにしているラッキーが、大好きだというマリアッジを突如歌い出す。過去の女への未練を切々と歌う歌詞で頑固爺さんらしからぬ意外な選曲。子供の誕生日会で歌う歌ではないんだけど、溢れ出してしまったのかもしれない。ずっと胸のうちに閉まってあった後悔する女性関係もあったのだ、きっと。

ラスト、悠然とそびえ立つサボテンの前で物思いにふけったあと見せる笑顔。『死』と向き合う事で、しまってあった自分らしくない気持ちの変化に『こんなのも悪くない』と自嘲する表情に見えましたね。
で、ラッキー爺さんが去った直後、蠢く影に『あ!』となります。バーで話題になってた脱走したリクガメの話がラッキー爺さんにオーバーラップするのです。捉え方次第で穏やかに待つことができるのだ、と。

スタントンの長年の盟友というデビッド・リンチ監督が主人公の友人役でさりげなく出演しているのもポイントです。とても染み入る映画でした。
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