KEKEKE

女王陛下のお気に入りのKEKEKEのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.0
- 今作はランティモスがこれまでに撮った長編で初めて、彼自身とエフティミスフィリップが脚本を書いていない作品だ
- よって今作によって逆説的に彼らの特色が何だったのかが浮かび上がってくる
- この映画はこれまで彼が描いてこなかった"愛"を軸に、多面的な女性の強かさにフォーカスした作品である

- 彼らが脚本を書いた過去作の特徴は、どれも過度な感情表現を排し、登場人物が機械的かつ人形的な振る舞いをすることで、寧ろ操り手、ある意味での神の存在を浮き彫りにする構造にあった
- 端的に言うと彼の作品が描いてきたのはドラマではなく構造だったのだが、今作では一転、愛と嫉妬、欲望と憎悪の物語になっている

- ナイフのように周囲を傷つけていた男に彼女ができて、すっかり優しくなったような感覚だ
- 少し寂しさは感じるが、牙が全て抜け落ちてしまったとかそういうわけではなくちゃんと彼のイズムは残っているし、何よりめちゃくちゃ面白かったから何の問題もないっちゃない
- 結果的に今作は商業的にも成功を博し、ヨルゴスランティモスの手腕をさらに轟かせる契機となった

- ランティモスは現実の構造を浮かび上がらせる為、現実を僅かに改変した微ファンタジー世界の映画を撮ってきた
- その改変とはDOGTOOTHでは常識、ロブスターでは法律、聖なる鹿殺しでは呪いだった
- あくまでも改変するのは現実の一部分なのだが、その僅かな改変が登場人物の深刻な葛藤を生み、その葛藤とは直接私たちが抱えている葛藤そのものであり...といった形でフィクションのはずだった作品世界が現実世界に染み出してくるという仕組みになっていた

- 今作ではランティモスが(フィリップも)脚本から離れ、上記のような戯画的な手法も鳴りを潜めていて、さらに次作でも彼は脚本を書いていないっぽいからもしかすると今後はこの方向性の作品を撮っていくのかもしれない
- 彼は変わってしまった......みたいな書き方をしたけれど、彼のイズムは確実にそこに残っている
- 魚眼や俯瞰、執拗なズームインズームアウトなどの撮り方は、彼のこれまでの特徴そのものだ
- そもそもこの話は王宮という圧倒的な権力勾配の下で権力を利用する2人の女性の物語であるし、その2人の没落と出世の公平性の中に愛という不均衡で不確実な可能性を見出す構造の作品なので、過去作からネクストレベルへと順当にステップアップしているともとることができる

- オープニングとエンディングでイングランド内のあらゆる関係がシンメトリーになっていて、しかし王女とサラの愛というその一点においてのみ、全く変わらない関係がある
- 失うことで真の愛を見つけたアンと、全てを手に入れても満たされなかったアビゲイルが、ラストシーンで女王と娼婦の関係に戻り、そこに17人の死んだ子供達の代理である兎が重なるのはあまりにもランティモス然としていて本当に最高だった
- 社交ダンスのシーンとかDOGTOOTHだし、興味を引くための鼻血とかもロブスター!、これ書いてて気づいたけど彼の作品自傷が色んな角度から描かれますよね

- それにしても彼がこんなに怒りや欲望の感情を素直に表現できる監督だとは思っていなかった
- 新作がとにかく楽しみ
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