ユアン

ザ・スクエア 思いやりの聖域のユアンのレビュー・感想・評価

5.0
劇中で、クリスティアンが高く評価するザ・スクエアというアート作品は、実際にスウェーデンで展示されたアートプロジェクトで、周囲に人がいる状況下での行動原理「傍観者効果」にアプローチしており、他者への寛容性の喪失を批判している。クリスティアンは、その作品の示す倫理に感銘を受けながらも、それとは矛盾した行動をしてしまう。このような、矛盾は私たちにも普遍的に存在する。頭では理解していても、行動に起こす事が難しいという現代社会の人間の性が描かれている。滑稽に見えるクリスティアンは我々自身の姿であり、自分自身を笑っているというメタ手法になっている。劇中様々な四角形が映されるが、この映画での四角形は、思いやりの聖域である。意図的なまでに四角形を配置している意味は、世の中には至る所に思いやるべき状況が存在しているということか。そして、それに気付きながらも行動に移しはしない現代社会を示す。そして、最も顕著な四角形は、映画館のスクリーンであり、映画が映像作品から、観客参加型の空間芸術(インスタレーション)として機能している。映像で四角形への定義づけを行うことで、四角形の内と外の関係性を示す。内は、思いやりの聖域として寛容性のある世界。外は寛容性の喪失した世界である。ザ・スクエアというアート作品を映画館で構築しているのである。こんなにも、映画メディアを取り込んだアート作品はなかっただろう。そして150分以上もの長時間観客を拘束するアート作品は画期的すぎる。そこに、長尺の意義がある気がする。
そして、劇中で展開していく作品の宣伝方法で宣伝マンは、作品のコンセプトとは真逆のコンセプトを打ち出した炎上商法をとるが、結果、バズるもののクリスティアンを窮地に追いやってしまう。監督の他者への思いやりにかけたやり方が蔓延する規制のない無責任なソーシャルメディアへの批判がある。

劇中のモンキー・マンがパーティー会場で暴れ回るシーンは、傍観者効果の実験を描いているようなものである。野生的なものが介入する事で、文化的でない人間の本質が浮き彫りにされる。
ユアン

ユアン