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ナチュラルウーマンのYuのレビュー・感想・評価

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)
4.0
個人的にはトランスジェンダーの、特に女性に関しての偏見は、もうあまり無いのではないかと思ったりする。
たとえ近くに知人としていたとしても違和感さえ感じない気がするのは、やはり日頃から当たり前のようにテレビで観ているオネエタレントのお陰だろう。

アカデミー賞外国語映画賞を見事に受賞した今作。
主演のダニエラ・ヴェガが繊細かつ力強い演技で、とても素晴らしい輝きを放っていた。あの目で魅せる想いは、心に焼き付いてなかなか離れない。

ダニエラ・ヴェガ演じるマリーナは、最愛の彼の元家族から執拗に嫌がらせされたり、法的な手続きが済んでないことから
“男”として無下に扱われるなど、数々の酷い仕打ちを受ける。

そんな“女性として扱われない”苦しみを、無言でパンチングボールに叩きつけ、ぐっと耐え忍ぶ。
そして唯一、一緒にいると自分らしく女性でいられた最愛の彼でさえ、“もうこの世にいない”という仕打ちで彼女を孤独にする。彼女の心は今にも涙で破裂しそうだ。

サウナの男性用ロッカーに向かう際に、女性用から入り、タオルを腰まで下げて男性用扉へ進む姿には、最低限のプライドを守りつつ、最大限、プライドを捨てる。
そこには最愛の人との繋がりを求めた愛の強さがしっかりと表現されていた。

そして、皆の前で歌いあげるオンブラマイフ。
オペラ歌手としての才能を持つダニエラ・ヴェガによって、全てを優しく包み込むように奏でられるマリーナの姿は、まるで皆を見守る聖母のよう。

今作は、マリーナ役を演じたダニエラ・ヴェガこそが、原題でいう”ファンタスティック・ウーマン”そのものであり、彼女しか成し遂げることが出来ない、彼女のための作品と言っても過言ではないだろう。
それだけ素晴らしい演技を目の当たりにした。
Yu

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