Nagi

ラッカは静かに虐殺されているのNagiのレビュー・感想・評価

-
みました、ラッカは静かに虐殺されている。
アサド政権、反体制、そしてISの三つ巴、誰が正しいかなど誰もわからぬ混沌とした対立の中でしかし、静かに虐殺されてゆく声なき人々の血が流れる。
ISは、豊かなカリフ制理想国家というものを掲げ、相容れない人々たちを問答無用で虐殺していく。これでは市民社会としてのイスラーム共同体では全くないし、そもそも彼らが虐殺しているのは同じムスリムである。コーランにもはっきりと書いてある、"改宗を強制してはならない""神の前では皆平等"。戦う、制裁を加える、処刑する、神の御言葉を取り繕ってなされる暴虐は全く持ってイスラームではない。つまり、これはイスラームの問題ではなく、社会の問題、人間の問題だ。無垢な子供までをも暗殺者に育て上げ、国家のために人を殺させ自死させる。違うだろう、市民の社会であるべきだ。反対する人々を消し去ってしまっては、それは社会とは言えない。
とはいえ、この映画に関しては、そのまさに狙ったようなショットと凝った構成がいかんせんアメリカ側の断固たる反IS的プロパガンダにも見えなくないなと思った。惨状と、勇気ある人々の行動を伝えることには意義がある。しかし、冷静に見つめなければならないと思う。
そういう意味では、アレッポ最後の男たちの方が僕は心揺さぶられるものがあった。(戦火を描いたドキュメンタリーに優劣をつけることなど許されることではないのだが。)
Nagi

Nagi