Akito

ラッカは静かに虐殺されているのAkitoのレビュー・感想・評価

3.1
邦題のタイトルにもなっているラッカは静かに虐殺されている(Raqqa is Being Slaughtered Silently,RBSS)はシリア人によって結成された市民ジャーナリスト集団だ。公開処刑など残忍な方法で恐怖支配を敷く一方、徹底的な情報統制や外部へのプロパガンダに努めるISに対して、同じくメディアを駆使して対抗したRBSSの覚悟と功績がこの作品では描かれている。
緊迫感に満ちたドキュメンタリーだった。どのカットにも生と死が隣り合わせで同居していた。スマホやSNSだけを武器にISと戦うRBSSの彼らは、インターネットに接続する以上、いつ暗殺されてもおかしくないという極限状態に居続けたせいで、命が惜しいという感情など到底麻痺しているように見えた。今、自分の愛した家族や恋人、故郷が暴力の限り凌辱されたとしたら、ぼくには彼らのように戦う意志が芽生えるのだろうか。
そんな月並みな思いを抱くと同時に、人間は種族間で争う運命から逃れられないんだなと絶望する。何が正しいかなんて誰も決められないのだ。全てを奪ったISに抵抗するのも正しいし、隣国に亡命するのも正しい。信じる神の御意志のもと、教えに従わないムスリムを殺害するのも彼らの宗教上は正しいし、危険を引き連れて流れ込んでくる移民を排除する先進国も正しい。自分の定規で測ってみて正しくないものを倒しても倒しても、正すことはできないのだ。
当たり前すぎる話かもしれないけど、そんなことがデフォルトの星の元に生まれてしまったせいで、こんな残酷な世界を生きなければいけない人が存在する世界に、胸が痛む。
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