二兵

テリー・ギリアムのドン・キホーテの二兵のレビュー・感想・評価

4.1
CMディレクターのトビー(アダム・ドライバー)は、撮影で訪れたスペインの田舎で、謎の男からあるDVDを渡される。それは彼が学生時代に卒業制作として撮った「ドン・キホーテ」の映画だった。ロケ地となった村が近いと知ったトビーは、数年ぶりに村を訪れるが、かつて映画作りに協力してくれた現地の人々は、すっかり変わってしまっていた。

ヒロインとしてスカウトした少女アンジェリカ(ジョアナ・リベイロ)は、女優になる夢を抱いて村を出奔し、そして主演を務めてくれた老人ハビエル(ジョナサン・プライス)は、今や自分をドン・キホーテだと思い込む狂気的な人間と化してしまっていたのだ。ハビエルに会ったトビーは、彼から従者サンチョ・パンサと勘違いされ、無理やり旅に同行させられるのだが…。


ひさびさのテリー・ギリアム。あのギリアム監督が解釈する「ドン・キホーテ」か、はたまた序盤の展開的に映画作り映画なのかと思いきゃ、自分をドン・キホーテだと思い込んで狂ってしまった、狂信的かつ哀れな男の話でした。そもそも原題の意味が「ドン・キホーテを殺した男」だしね。

時代に取り残され、人びとから狂った人間だと言われ、面白がられても、なお自分が本物のドン・キホーテだと信じ続けるハビエルの姿は何とも切ない…。過去、何度もトラブルに見舞われながらも、ドン・キホーテ映画を意地でも完成させようとした(そしてさせた)ギリアム監督自身を反映した物語とも言えるかも。

風車を巨人と勘違いして突撃してしまう、有名なエピソードはもちろん、"鏡の騎士"との決闘や、木馬に乗せられるドンなど原作の要素があちこちに盛り込まれ、現実なのか妄想なのか分からなくなってくる絵作りが特徴。とはいえ『バロン』『未来世紀ブラジル』など、クセの強い美術や世界観が持ち味のギリアム監督作品にしては、かなり見やすい方ではないかと思います。またジョナサン・プライス、そして安定の我らがアダム・ドライバーら役者陣の高い演技力のおかげで、コメディーとしても存分に楽しめました。終盤の展開は色々な解釈ができそうな…。

映画を作り、最後まで完成させるというのは、ある意味本当に狂っていなければできないこと。おそらく当初思い描いていたヴィジョンとは全く違うものになりながらも、膨大な時間と金をかけて、意地で本作を完成させたギリアム監督に乾杯。
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