kokokashiko

世界で一番ゴッホを描いた男のkokokashikoのレビュー・感想・評価

4.0
舞台である中国の地方都市、大芬は深センからほど近いが開発の音は聞こえていない。
素朴さが残る下町の色濃い生活の中で量産されるゴッホの複製画、その風景はどこかドラマチックに映る。
働き盛りに見える男たちの仕事はゴッホの複製画製作で、シャオヨンさんはそれを20年間続けている。
そしてその仕事は今後も続いていくのだと、発言の節々から感じることができる。
ある時、シャオヨンさんは夢でゴッホと対峙する。
興奮気味に話す彼は、実際にゴッホの絵を見れば今後自分の仕事の糧になる、とオランダのゴッホ美術館への訪問を望むようになる。
「中卒ですらない」と泣きながら語っていたシャオヨンさんは、今となっては人一倍の畏敬の念を抱くゴッホのことを知らずに複製画を描きはじめたのかもしれない。
(日本のメディアによるインタビューによれば、本当に知らなかった。)

「魂は人を動かし続けるが、物質は人の欲望をいっとき満たすだけ。シャオヨンは魂で描き続けてきた」と、仲間は言葉をかける。
シャオヤンさんが絵を納品していたオランダの取引先は、露店の土産物屋だった。
画廊だと思っていたと言うのだ。
売値の10倍近い価格で売られる自分の描いた絵を見て物思いに耽る。

実際にゴッホの絵を見たシャオヨンさんは言葉少なだったが、静かに情熱は湧き上がっていた。
再度夢の世界へと誘われ、ゴッホと戯れ、そして現実に戻り仲間に語る。
職人としての矜持を得た、と。
そして悩んだ末に初めてのオリジナルを製作する。
複製画ではなく、自分にしか書けない絵。

テーマもさることながら、とにかくどこを切り取っても演出、編集が巧みだと感じた。
ネットメディアで日本向けにシャオヨンさんの書簡が公開されているのだけど、とても優しい語り口で人柄が表れている。
kokokashiko

kokokashiko