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陽のあたる坂道のodyssのレビュー・感想・評価

陽のあたる坂道(1958年製作の映画)
3.2
【「エデンの東」日本版】

石坂洋次郎原作小説の映画化。2部構成で、合計3時間半ほどかかる大作です。もっとも私の見るところ、2時間半くらいの1部構成でも作れそうな感じがしますが、この映画が製作された頃の映画館は2本立てや3本立てが普通だったので、そういう方面からの都合もあったのかもしれません。

DVDのジャケットにも書いてありますが、有名な『エデンの東』を意識した筋書きです。すなわち兄弟の葛藤(くわえて出生の秘密)。弟は一見ぐれているようでいてまとも、兄はその逆・・・・という関係もそうですし、女の取り合い(?)も同じ。ただし、日本人は優しいせいか、あれほど極端な結末にはなりませんが。

特に第1部では、せりふが日本人離れしていて、あまりリアリティがありません。別に糞リアリズムがあればいいというものではないけれど、同じ内容でももう少しセリフの言わせようがあるだろうと思うのです。私は原作は未読ですが、多分原作を活かそうとしたためにこうなったのではないでしょうか。小説だと登場人物の多少観念的な長広舌でも読めてしまいますが、映画だと実際に人が声に出してしゃべるので、ドストエフスキーの登場人物ならいざしらず、普通の日本人がこんなしゃべり方しないよな、とあきれてしまいます。

しかし、女の生き方を描いているという点ではこの映画は『エデンの東』よりはるかにすぐれています。北原三枝や芦川いづみ演じる女子学生の姿は、戦後日本の若い女性の生き方の方向性をそれなりに指し示していたと言えるでしょう。もっとも北原の役は、舞台となるブルジョワ家庭の内実を次第に明らかにするための狂言回しという側面もあるので、さほど奇矯な感じはありませんが、芦川が産婦人科医にかかった体験を想起するシーンはちょっと見もの。このシーンで医師が患者を相手にしながらタバコを吸っているのも、時代を感じさせます。

また、北原、そして石原裕次郎の実母が住むアパートという形で、昭和30年代初めの庶民の暮らしが描かれているのも、今から見ると貴重。建物玄関で靴を脱いで上がり、共有廊下に面した部屋の住人同士で行き来がある。当時の日本人の付き合い方や感性がよく分かります。それは、ブルジョワ家庭の広壮で個室がメインである邸宅と対照的なのです。

私としては、この映画で一番印象に残ったのは芦川いづみでした。当時20歳を2、3歳出ていたはずですが、高校生役でぴったり。様々なシーンで彼女なりの魅力を存分に発揮しています。石原裕次郎よりも北原三枝よりも、芦川いづみを見る映画だと思います。
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