kazukisera

希望のかなたのkazukiseraのレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
3.7
「素敵な荷物が運べた。金なんていらない」

主人公は青年カーリドは、故郷シリアの内戦により妹以外の家族は全て失い、シリアから脱出する際に妹とも生き別れとなり、それからは人生をかけて国から国へと妹を探しながら、フィンランドに密入国を果たした。
もう一方の主人公は、中年のヴィクストロム。冴えない服のセールスマンだったが、妻とも別れ、服の在庫を半値で全てゆずり、少ない資金で潰れかけのレストランを買い取ります。
それぞれの関係のない物語が進みながら交差して、それぞれにほんの少しずつ変化が訪れる。現代ヨーロッパで重要な問題と言える、難民問題をテーマにした物語です。

"家族は全員死んだ。でも耐えて生きてくれ"

「大丈夫。私はママの子よ。死ぬのは簡単。私は生きたい」

現実は、辛く険しい事ばかりだけど
生きてれば悪い事ばかりじゃない
希望が叶わなくとも
思いやりと優しさの連鎖で
心は救われる
愛があれば救われる

「コントラクト・キラー」
を見て、フィンランド「アキ・カウリスマキ」の世界にもう少し浸りたいと思い、そこから27年後の2017年作品のこちらを鑑賞。
まだまだ沢山の作品があるのだが、彼の最も最新の作品を観てみたいと思ったのだ。

それにしても驚いたものだ。27年経っても何も変わっていない。本当に2017年作品なのかこれはと思う。1992年くらいの作品なんじゃないのか。もちろんこれは、いい意味である。
これを観て、コントラクトキラーでは浸りきれなかった彼の世界にゆっくり入っていけた気がする。

どちらの作品にも言える事が、主人公を筆頭に登場人物が全員無表情なのだ。感情が読めない。
なので、悪い人なのか良い人なのか、喜んでるのか悲しいのか、初めのうちは見分けがまったくつかない。

これがまたよいのである。無愛想だから優しさが染み込む。シュールな笑いもちょこちょこ挟んでくるのだが、これがじわじわくるのは全員が無表情だからこそである。この独特なユーモアな作風もアキカウリスマキの世界なのだろう。

あとは、経緯や人物像にしても
とにかく説明的なものを最小限にしている。

何故こんなにも困っているのか
何故こんなにも助けてくれるのか
何故こんなにも恨まれるのか
何故こんなにもうまくいくのか

言い出したらとまらないくらい「何故」は生まれるのだが、なんだかそうゆうのどうでもよくなるんですよね
別に理由なんていらないのかなと。

物語をややこしく見がちだからこそ
「まぁいいか」
そう思わせてくれるとこが
アキ・カウリスマキの魅力かもしれない

フィックス(固定)された画に、無表情の人達、最小限の言葉、独特の間を挟んでから切り替わるシーン
心境や状況をこちらがなんとなぁく想像しながら物語が進んでいくような

終わり方もそう。その後は、ご自由にご想像下さいてなところだ

思えば、同監督作品
「過去のない男」を2014年に鑑賞していた。
あぁ、あれはアキカウリスマキだわ
と今なら言える
みんな無表情だったわ

嫌いじゃないなぁこの監督。
2周回った人が好む作風だと思います。
歳を重ねるにつれ、より好きになりそう