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祈りの幕が下りる時のSTAYGOLDぴあ映画生活のレビュー・感想・評価

祈りの幕が下りる時(2017年製作の映画)
4.5
街物語
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愛する者のために自分の人生を捨てることができるか。
この究極の問いに対する答えがここにあるー

新参者シリーズが残してきたものは、人間の情と哀。

そうして。
哀が愛に昇華した時、このシリーズは静かに幕を引く。

理系主義の原作者は全体像を決めてホンを生み出すが、おそらく本作は作者の意図とは別の流れで着地しているだろう。

物語は、どんなにスジを決めて書いていても生を受けたキャラたちが、やがて勝手に動きだす。そんなものだ。改めてそう感じさせてくれる映像化だった。映画の映像スタッフは原作をうまく映像に落としていた。それでいて映像ならではの新たなアレンジもある。原作とは一味違う良い時間をもらえたことを感謝したいと思う。

今作はキーキャラクターを演じる松嶋菜々子と子役時代を演じた桜田ひよりに尽きる。

「泣けるミステリー」なんて安っぽいことばで語れないもの。
彼女たちは覚悟を観客に突きつける。どう、わたしたちの、あたしたちのこの姿を見て、何も感じないの、と。こころに響かないの、と。当人達にはどうしょうもできない事実。

だが、だからこそ、その凄絶な姿に感応したものが、こころの裏側を激しく傷つける。開いた傷口から流れおちるきもちが、素直に情感として零れおちてしまうのだろう。

ただ、それだけでは無い。人間の持つ邪な、だが隠せない欲望もきちんと描かれる。それは性欲であり、金欲であり、名誉欲であり、嫉妬であり、独占欲。白と黒は裏表。いいひとばかりではない。だからこそ、危ういバランスの中でこの世界は回っている。

初めは違和感があった阿部寛の加賀恭一郎だが、今はもう彼で無いと加賀を感じなくなってしまった。やはり、力がある役者は役を自分のいろに染めてゆく。

大切なバイキャラを演じる面々も新参者の世界を紡ぐには欠かせない存在なった。空気のような世界。その普通さが続いていく物語には大切だ。本作もその高見に達したが、もっと欲しいと感じるときを千秋楽として幕を引くことを選択した。古い歴史を持つ劇中舞台の世界観そのままに。潔さ。それこそが、江戸っ子の住む世界の粋だ。

私は、本作をあまりひとに薦めたくない。
なぜなら、観た者の持つ何かが激しく選別されてしまうから。
映画とは何か。物語とは何か。理屈か。それとも感性か。
あなたは、どんな生き方をしてきたのか。どんな恋愛をしてきたのか。子供はいるのか。独身か。既婚か。離婚か。今は幸せか。それとも、死にたいと思っているのか。

本作はそんな映画だ。
加賀の緻密な捜査そのままの。
真実を知るための。

だから、あまり薦めたくはない。ただ、ひとつだけ言えることがある。この作品の世界に生きている人々を観れば、観賞後何かを考えるきっかけになるはずだ。他人に言えない闇を抱えているひとは特に。そういう作品だ。

「8年やらせてもらった加賀恭一郎という役は僕の基盤で、何年かに1度帰って来られる役者の芯の部分だと思っていました」

そのきもちを受け止めて、作品を感じて欲しいと願う。

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