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フラットライナーズのJIZEのレビュー・感想・評価

フラットライナーズ(2017年製作の映画)
3.7
医学の新たな境地を立証する術に"死後の生"へ着目した医大生たちが臨死実験を経て得た身体能力の覚醒とともに副作用の影響でやがて取り返しのつかない事態へ呑み込まれていく続編を描いたサイエンススリラー映画‼タブーに触れた当事者たちの自業自得だと決めてしまえば恐らくこの物語はすぐさま終焉する。前半は特にセンセーション溢れる高音でアッパーな世界観が成功に登り詰める若者の素顔をそのまま映し出し象徴的でもある。また実験の影響で犠牲者が出る一幕からもサザーランド版の前作『フラットライナーズ(1990年)』と比較すれば神話性など余計な宗教感が取り除かれ旧盤より現実思考で線引きされていた。つまり登場人物たちが背負う"断ち切れない贖罪"のアプローチに対して努力や謝罪では償い切れないケースを生存本能という人間の身勝手な意思に反してゆいいつ本編では1箇所だけシッカリと示した事がいい。原題の『Flatliners』はFlatlineが医学用語で"心停止"を意味し要約すれば"臨死実験の被験者"となる。まず大枠のプロットは恐らくこういう事だろう。主に"目先の好奇心に刺激された若者たちが人生を破滅させ兼ねないタブーの領域に足を踏み入れた事で過去と折り合いをつけていく話"。作品の構造は前半で"臨死体験の事象"が輪廻を織り込みながら描かれ作品の後半では実験の副作用が被験者へ猛威をふるう。冒頭でエレン・ペイジ演じる医大生コートニーとその娘が車で走行中によそ見運転からハンドルを誤って事故へ発展する重要な場面が描写される。ここで失った代償が計り知れない事を最初でアプローチした事によりコートニー自身の背景には厚みが加わりスムーズな固い導入であった。

→作品概要。
監督は『ミレニアム・ドラゴン・タトゥーの女(2009年)』のニールス・アルデン・オプレヴ。前作『フラットライナーズ(1990年)』の世界観から約28年後を舞台に取った続編。主演は『タルーラ 彼女たちの事情(2016年)』のエレン・ペイジ。また本作はオリジナル版で主演を務めたキーファー・サザーランドが別役でカムバックした事も注目を浴びた。

→旧病棟で繰り返される知識の針を進める場。
作品の主題である"死と輪廻"だが前半は特に"一歩危ぶめば命を落とし兼ねない病理"が世界観を織り込み中毒的に暴走してグルーヴされていた。例えば序盤,本体がフラットライン(=心停止)した後,再び数分後に体外離脱したカラダへ意識を元に戻す秒単位で胸の鼓動がドクドク速まるようなスリルや被験者が臨死中に遭遇する具現化された過去の罪(回想)描写など各登場人物の現在と過去を肉付けする周到な場面である。ただ空間移動の制約や痛みが蓄積されるなどもう少し論理が定まってればロジックを効かせた緩急が映えていたように思えた。ただそれなりに被験者へ迫るただならぬ生と死の切迫感や周囲の緊迫した雰囲気など実験台を介してあれこれ予測不能なハプニングが地続きに配されていくので疾走感も相まって食い気味に画面を観ていた。ただ後半へ進むに連れ臨死実験の被験者となった者たちが実験を経て浮かび上がる贖罪をベースに大罪とどう向き合うか…という凝り固まった主題に物語の推進力が負荷されていくため科学や医学の未知なる可能性といった最初で提示したテーマから乖離してしまう薄さ無難さは打撃性に欠け否めなかった。中盤である重要な主要キャラクターがなんの前触れもなしに本編から離脱してしまうポッカリ穴が空いてしまう構成も振り返れば均等性が取れておらず齟齬が生じている。各キャラクターが罪を償うベースで過去を連立させて別個で展開させるよりも何か重要な主軸1本で向き合う対象を絞りそれを医大生の全員が立ち向かうプロットに差し替えた方が総括的に取れば映えていたように終盤は特に感じました。惜しい一品。

→総評(大罪を背負った医大生たちの苦悩と決断)
サザーランドの旧盤に比べれば臨死実験の魅せ方であったり現実思考で突き詰めた社会問題をまぶせるエピソードなど呑み込みやすさで言えば進化の域を数段感じさせる。また元々,確信性が薄いスピリチュアルな信憑性が不確かな内容に対して娯楽サスペンスと医学療法を融合させたという点でも先駆的であり新種で評価したい。ただどうしても避け難い苦言を呈せば脚本の土台が平行線を脱線する事なく平坦で酷かった。つまり娯楽路線というファミリー向けアイコンを監督が意識してしまったせいか場面毎の振り切りが極めて浅い。この物語で登場人物が迎えるある結末に対しても完璧に解決できてない事が否めず不完全で気に食わない。最後はバッドエンドでも最悪な方向へ脚本を振り切り意図的にでも"運命の残酷さ"や"努力しても決して報われない贖罪の重荷"みたいな"回避できない罰"を医学生サイドに投げ掛けもっと+R18に繰り上げてでもダークに描き切って欲しかった。そうすれば大傑作にもなり得たであろうし惜しい一品でもある。また前作の感想でも示したよう神の領域に手を染めた"報い(天罰)"の描き込みが今回の続編でもほぼ改善されておらず禁忌を犯した事による対等な代償が生半可で描けてない。壁に赤色でMurderとペイント演出したり終盤の遺体安置所である人物が死体に襲われるくだりでも"単に狙われるだけ"で場面の意図が静止してしまっている。あと本作の立ち位置が旧盤から約28年後の世界観だと謳ってるが本編ではその要素が皆無で前作との連結感が台無しに終わっていた。サザーランドが旧盤で演じたネルソン役でも今回ではなぜ別役の教授にしたのか…旧世代と新世代が助け合う一幕が数ヶ所でもあれば評価はガン上がりした模様。ただゆいいつ終盤でサザーランド演じるウルフソン教授が「本当は何かを知っていて隠してるんじゃないか?…」と医大生たちに対して問う。何気無い描写であるが台詞が重くのし掛かるいい場面だった。決死の覚悟で臨死実験へ身を投じたそれぞれの医大生が最後に迎える運命は…脚本は元より外観の突発的で予測できない恐怖感は秀逸だった。また今回,主演のペイジに関しては傑作映画『ハードキャンディ(2005年)』以来のスリラー映画では久々の原点回帰作でもあり改めて芝居の域を実感させるものだった。今年最後の劇場鑑賞だったが初日に監視して悔いなし!ぜひ各役者の"臨死顔"を鑑賞する目線でもお勧めします‼!
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