ひへいこう

四月の永い夢のひへいこうのレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.5
何かを失ってしまった人、何かを失おうとしている人、そんな人にぜひ今、観て欲しいです。

5/31武蔵野館と6/3伏見ミリオン座で鑑賞しての感想です。

まず一番最初のシーンからこの映画の美しさに没入することができます。それは映像の美しさよりも一瞬だけ先に朝倉あきさんの声の美しさから入るのがとてもよかった。

この映画は映像美だけでなく、音声美がとても秀逸です。俳優の声がどの人も素晴らしいだけでなく、ラジオの音声、そして虫の声やカラカラと自転車の車輪が回る音。普段気にもとめない音すらも美しく響いていて、それがまず印象に残りました。

物語では恋人を亡くした女性がそこにとどまったままどうしても抜け出せない様子が描かれています。悲しみ自体は3年の時を経て形を失いつつも、あることがどうしても心に残っていて動き出せないでいる。ほんとうに何か哀しいことが起きたときってこんな感じだなと思いました。

喪失感を描きたかったのではなく、そこから新しい人生を歩き出すまでのモラトリアムを描きたかったと、中川龍太郎監督が伏見ミリオン座でのティーチインで仰っていて納得しました。

高橋恵子さんの台詞しかり、ひとつひとつの言葉が胸に響くとともに、台詞にならない心情描写が素晴らしい。何かをもらっても、お金を払おうとする初海、熊太郎とデートの帰り大好きな音楽を聴いて弾む足取りで夜道を歩いていたのにハッとする初海。胸にぐっと来ます。

それらの繊細な表現でどっぷり感情移入したあと、最後の最後で提示された祝福に、ああ、よかったなぁ、ほんとうによかったなぁと思い、2回観てもひたすら涙を流してしまうのでした。ラジオと赤い靴の曲の暴力的なまでに効果的な使い方。おもいだすだけでうるっときます。

監督は初海はめんどくさい女なんですと言ってたのが可笑しかったです。

ちなみに、てぬぐいの個展で熊太郎と共に並んでいたふたりの名前は助監督さんと照明監督さんのお名前だと教えてくれました。スタッフロール見てて、あれ?同じ名前だと気付いたので尋ねると笑いながら教えてくれました。監督の次回作が楽しみです。
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