ブタブタ

THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティのブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
ひとつ言いたいのは二宮健監督はとんかつDJなどを撮ってる場合では無いという事。
『リミット・オブ・スリーピング・ビューティ』の多分に妄想含む自分の感想。
⚠︎ネタバレ注意⚠︎
これPKディックの『火星のタイムスリップ』『去年を待ちながら』更には『流れよ我が涙と警官は言った』だよね。
二宮健監督については若い人という以外何も知らないのだけど。
コレ蜷川実花系?リア充お洒落映像映画だと思って初めから無視してる人多いのでは。
なので届くべき客層に届いてない気がする。
(自分みたいな)
検索しても桜井ユキと高橋一生のラブシーンがどうのとか言うどうでもいい記事しか出てこないし、ゆうばりファンタスティック映画祭で特別賞取ってるらしいけど「そっち」の人達は全然見てないの?

「29歳の売れない女優・織亜アキ(桜井ユキ)はサーカス団のマジシャンの助手として催眠術にかかる演技を毎日のように繰り返すうちに精神は摩耗しいつしか現実と妄想の境界が破綻しようとしていた。唯一、美しい思い出として残るのは恋人カイト(高橋一生)との時間。アキは人生を再生できるのか」(解説より)

これ「妄想」で片付けられてるけど全部「現実」だよね。
少なくともこの映画の中では。

寺山修司『田園に死す』
夢野久作『ドグラ・マグラ』

サーカス団と白塗りのピエロ、アキの「基本世界」はそこでありカイトとの美しい思い出の場所であるそこからどうしても抜けられず何度もそこに戻ってしまう(『田園に死す』)

アキは精神病棟に隔離された精神病患者であり同時にこの世界は全てアキの妄想であり、同じ事が無限にループしている(『ドグラ・マグラ』)

そしてこの二つの世界(更にそこから分岐したあらゆる世界も)はアキによって作られた「現実」でもある。
少なくともアキだけはそう認識している。

『火星のタイムスリップ』では自閉症・精神疾患患者が知覚する世界が現実にも影響を与えて世界が改変され、同時にどんどん狂っていく。

『去年を待ちながら』では新種のドラッグによる幻視がタイムスリップを引き起こす。
愛する人は既に死んでたり、もう取り返しのつかない所に事態は進んでるのにそれでも人生をやり直そうとする所とか。

更に平行世界への移動や、それらが全てある1人の人間への「愛によるもの」って根本のテーマみたいなのは『流れよ我が涙と警官は言った』
アキが真に欲していたのは女優になりたい有名になりたいよりもカイトだけだったんじゃないだろうか。
アキは精神の摩耗による時間の喪失に加えて薬物によってパラレルワールドを一度に見て好きな様に出入りし、そこでなりたい自分になれる能力を得ている。
だから何度もAURORAに戻りカイトに合ったり家出した日のバーに戻ってカイトとの出会いを最初から(何度も)繰り返している。
しかし既にカイトは死者であり、カイトの人生はそれ以降は存在しない為アキがいくら世界を改変しようと全ては無駄に終わる。

最初にピエロによって「時間は存在しない。過去現在未来は全て同時に存在してる」ってわざわざ丁寧に説明してるし、全てはアキが同時に体験している事。

本人の自覚がないままアキは『ウォッチメン』のDr.マンハッタンの如き存在と化している、即ち「神」に。

宇宙の始まりはビッグバンではなくて未来が無限に分岐するのと同じく過去も無限に分岐していて「新しい過去」が生まれてるって説。
アキが夢見る世界が具現化すればそれに合わせて過去も改変され、やがてそれ等は矛盾を引き起こしたり破綻したり、またやり直す事によって又矛盾、破綻、再生が永遠に繰り返される。
あのAURORAってサーカス小屋を爆破する事により無限ループを抜けたと思った瞬間、その世界も結局は「神」であるアキにとっては一つの世界でしかないし、又最初からこの話しは始まってしまう。
正に『ドグラ・マグラ』

閉じ込められた精神病棟で、空間からショットガン出してからの脱出とバトルは『レギオン』みたいだしやっぱりこれってアキという超能力者・ミュータントから見た世界、『X-Men』的な映画でもある。

次の『真夜中乙女戦争』がもう早く見たくて堪らない。
原作未だ読んでないのでアレ何ですが此方も一見最近流行りのお洒落映像モラトリアム映画に見えて、予告見ると名前の無い主人公、「東京破壊計画」の燃えあがる東京の夜景、チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』みたいな?
ブタブタ

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