80年代の権化、マーヴェリックが帰ってきた。強いアメリカの象徴、理想主義、輝かしい未来への希望、その彼が年老いて引退間近になって戻ってきた。僕らに何を伝えたいのだろう?
あの頃、僕らが想い描いた理想は、アメリカや大人達が壊してきた。正義なき戦争、捏造、不信、分断、そして理想は死んだ。
父権は崩壊し、あらゆる文化や思想が自滅をし始めたかのような現代社会。そんな時に「待て、理想を捨てるな」と言う男がいる。
その男は口で物を言う前に、自ら理想とは何なのか体現して見せる。みんなに馬鹿にされても、無理だと言われても、迷惑だと罵られても、それでも挑戦することをやめない。
皆が諦めかけた時に
まだ行ける、と前に進むことを諦めない。僕らにまだ教えることがあると言う。
ターミネーターもスターウォーズも007も旧世代の間違いを認め、あの頃の理想は死んだのだと言った。ハリウッドの殆どが、かつて見せた夢は世界をより悪くしたのだと白状したのだ。
それでもトム・クルーズだけは諦めない。負けを認めない。往生際の悪い彼は、皆が止めるのに粘って踏ん張ってマッハ10を超えてくる。機体がバラバラになっても生き延びる。
彼は本当は傷ついている。自分の理想のせいで大切な人は死んだのかと、いつまでも葛藤している。アメリカの理想を殺したのは自分なのか、いつまでも問い続ける。だけど、彼は歩みを止めない。
理想の父親代わりにはなれないかもしれない。過去も取り戻せない。愛した女性も傷つけてきた。本当はもう世界に必要とされてないのかもしれない。後は去り行くだけの老兵なのかもしれない。
だけど、トムはあがく。厚顔無恥にも食らい付く。若者の特権を奪ってでも見せつける生き様。命のかけ方。
そんなところで満足するな。
上を見ろ。
まだ飛べるだろ。
もっと速く。
自由な空に向かって、
限界を超えろ。
理想は死んでない。
俺が限界を超えて見せるから、
この先がまだ在ることを信じろ。
そう彼は宣う。
時代遅れのオンボロ戦闘機に乗って、高らかに謳い上げる理想主義。
人は、まだ翔べる。
トムは、この次 宇宙に行く。
大空を超えて、宇宙に旅立つ。
それは人類に示す、残された希望。
可能性はいつまでも無限大だと教えてくれた。
有難う。トム・クルーズ。
有難う。マーヴェリック。
僕らは まだ翔べる。