天馬トビオ

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストの天馬トビオのレビュー・感想・評価

4.0
金子文子を演じたチェ・ヒソが素晴らしい!  

難癖をつける右翼ゴロにおでんをぶっかけ、裁判所で野次を飛ばす傍聴人には「静かにしろっ!」と胸のすく一喝。鬼女の面貌で天皇制批判を激烈に述べる一方、ときおり朴烈に向けてクシュッと笑顔を見せる。おくれ毛やほつれ毛にふっと息をかけるといった何気ない仕草も演技とは思えない自然さ。喜怒哀楽をストレートに表現し、そのつどくるくると表情を変えていく。

文子はもちろん、登場する日本人のほとんどを韓国人の役者さんが演じているため、政府高官や官僚役にはいささか違和感があるものの、全体としては今の日本ではおそらく作れないであろう歴史に即した硬派の作品に仕上がっていると思う。有名な朴烈と文子の「怪写真」が撮られた経緯も、大逆罪へ持っていきたい政府権力者側の思惑と、予審判事の出世願望による結果の産物と、物語上、そうなのかもしれないといった流れで描かれている。

ああ、それにしても、明治から大正期にかけての女性アナキスト・革命家たち――文子をはじめとする管野スガ、神近市子、伊藤野枝らの生涯の何と劇的なことか。生まれや育ち、思想・信条、恋愛観の一切合財を含めて、彼女たちの生き様には興味が尽きない。
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