ハセガワリョウ

寝ても覚めてものハセガワリョウのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.9
カンヌのコンペティションで「万引き家族」とパルムドールを争った商業映画デビュー作。

なにをもって人は人を好きになるのか、嫌いになるのか、理解するのか(したつもりでいるのか)。
それは本心なのか、妄想なのか、幻想なのか。
ハッピーアワーのようにまたも心地よく分からないが襲ってきた。

フレームの使い方が本当に上手い。店の窓やドア、家のリビング等至るところで朝子はフレーム(枠)の中心に収まり、登場人物と同様に観客も朝子をどんな人間なのか「みる」ことを強いられる。
だか震災を境にフレームは取り払われ朝子の人間像が形づくられる。

「他者」は朝子を強欲だとか自己中心的だとか枠に収めたがる(収めずにはいられない)ただ最初から一貫として朝子は朝子だし、本心に従って行動している。
勝手に期待されて勝手に信じられるほど面倒くさいことはない。
なにより彼女もまた「みる」側なのだと思う。
少なくとも朝子は麦と亮平としっかり向き合ってた。
原題がほんとに秀逸だと思う。
自分が勝手に作り出した人物像の枠をはみ出した時どう立ち回れるか。
人を信じるなんてあまりに無責任。
むしろ自分を信じることができるか。

終盤で麦が現れる引きのカットが忘れられない。
メインの2人は非現実的で異質な存在感を発揮してるし、脇を固めるキャストもいわゆる「リアルな演技」が上手い。

この映画は「自分」と「他者」の存在をとても丁寧に繊細に強く意識させる。
自分の湧き上がる感情を確かめるような感覚で何回も観にいった映画は始めてかもしれない。
ストーリーが面白いとか、演技がリアルとか、映像が綺麗とか、そういったフィクションの枠を飛び越えた何かが観てる最中からビシビシ感じる。
自分中の分からないを大切にしようと思える希有な映画。