ななし

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のななしのレビュー・感想・評価

5.0
舞台はフロリダ。ディズニー・ワールド至近の安モーテルで暮らすシングルマザー・ヘイリーと娘・ムーニーの物語。世界最大の”夢の国”のすぐそばでその日暮らしの人びとのシビアすぎる”現実”の生活が展開される。

映画中盤、生活に困った母のヘイリーが買春客を部屋に招くあいだ、娘のムーニーは爆音のヒップホップとともに風呂場で待機する。こういうキツすぎるシチュエーションが本作のいたるところで散見される。

しかし、本作は主に子供の視点から描写されており、実際のところ観客はそれほど悲壮感を覚えないようにつくられている。それは、撮り方だけで映画がもってしまうショーン・ベイカー監督の超美麗ショットのせいでもあるのだが、そもそもあの美しさは「子供から見えた世界の景色」だと解釈すれば、その美化作用にも必然性があると思えてくる。

他方で売春のことを言い触らしたモーテルの住人であるアシュリーをヘイリーがボコボコにする様子を、アシュリーの息子であるスクーティの頭越しに捉えるショットは、子供が心理的安全性のためにあえて厳しい状況を認識せず、心に蓋をしているようにも思えて、かえってキツい気持ちになった。

そして、ラストシーン。
子供ふたりがモーテルの過酷な現実から飛び出して、文字通り”夢の国”(お金を持たない子供ふたりがフラフラとディズニー・ワールドに入れるわけがない!)に入り込んだ──それを「希望に満ちたラスト」と取るか、「破滅的な終焉」と取るかは人それぞれだと思うのだ。僕は前者派。というかそう信じないとやってられない。
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