なすび

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のなすびのレビュー・感想・評価

5.0
この映画のことをふと思い出すと心が満たされる、こんな素晴らしい映画に出会えて本当によかった。そしていつもお風呂のシーンの時のムーニーママがどんな思いで売春していたか考えると、やり切れなくて胸が苦しくて張り裂けそうになる。

(追記)
ムーニーのママについて「感情移入できない、自業自得、子どもすぎる」という意見を持っている人が多いことについて。

モヤモヤしてたけど、最近は少しずつそういう人の気持ちも理解できてきた。
確かにムーニーママは人間としてダメダメ、全然成長してない子どものまま、ムーニーのことは愛しているけど特に必死に今の状況から抜け出そうとしているようには見えない。汚い言葉ばかり言って管理人にさえ楯突いている姿を見て「何この人」と思う人がいるのもまぁおかしくないのか、、、
第一にムーニーママの描き方が「生きた」人間らしいことによって、ムーニーママにイラつく人がいるのだと思う。そう言う人たちは、もしママが健気で頑張ってていつも「すみません」とか頭下げて回るような人間だったら感情移入出来るのかもしれないが…でもそんな悲劇のヒロインみたいな人間この世にいねーよ……そんなのは映画の中だけの嘘っぱちの虚像です。現実には貧困層のシングルマザーはムーニーママみたいに子どものまま抜け出せなくて周りには虚栄を張って、強がって汚い言葉使ってどんどん孤立して、でも他に人との接し方が分からないんだと思う。ママだってまだ20代そこそこだろうし、若くて遊び回りたいのに何も考えずに子どもが出来てしまった。子どもができたらどうなるかとか、避妊の方法とか教えてくれる人がいなかったのかもしれない。
私たちは日本に住んでいてこの映画を観れるくらいならそれなりに教育も受けてお金もある安定した暮らしをしている身からは想像も付かないかもしれないけど、泥沼のような貧困がある。親が貧困なら子供も抜け出せない状況がある、スタートラインが違いすぎる。でもそれって自業自得なのだろうか…?生まれた時から貧困層であることって自分が悪いんかな、そこから抜け出せないのって自分が悪いんかな…?
モーテルで生まれてモーテルで暮らし、子どもを産み、子どももまたモーテルで暮らす。周りのみんなもモーテル出身でその日暮らしだし、そもそも他の生活なんて知らない。生まれたその時から生活を決められたようなものなのだ。
つまり、まぁ百歩譲ってムーニーのママのことが好きになれなくてもいいから、悪いのはママだけじゃないってことをわかって欲しいな。そもそも貧困層に厳しい社会制度のあり方とかに問題があるのは明白だと思うので。


この映画を見てから最近ずっとこの映画のことばかり考えている。これこそ監督がしたかったことであり、監督も「観客も一緒になってこの映画について考えて欲しい、こっちだよと手を引いてあげるような映画にはしたくない」と言っていたがまさにその通りの術中にはまりました笑

多くの問題を抱える国でありながら、アメリカは意外とこういう社会派で低予算な映画は少ないらしく、お金持ちの映画の作り手たちは社会問題から目を背けていることに監督は憤りを感じているらしい。んー、これ日本にも言えることかもしれませんね、耳が痛い。モーテル暮らしとネットカフェ難民て一緒ですもんね。

自分は今21歳で人生の岐路に立っているわけだが、この時期に見れたことはすごくラッキーだと思う。社会と映画のあり方について、またまだまだ自分の知らない世界があることについて学べたことは大きい。ほんとこれからどうやって生きていこうな〜〜〜

ほんとこの映画の力はすごいなぁ、見終わって時間が経つにつれてどんどん映画について考える時間が長くなるなんて。



うわ〜〜〜〜ァァァめちゃくちゃ良かった😭映画館でぼろ泣き、今のところ今年の準ベスト(ベストはやっぱり「シェイプオブウォーター」)でも本当に僅差。めちゃくちゃいい、とてもいい、これはいいです…

舞台はディズニーワールドが近くにあるフロリダ。6歳のムーニーはママと2人でモーテルに住んでいる。ムーニーは毎日仲良しのスコッティや新しく出来た友達のジャンシーと遊びまわっている。

基本ムーニーの視点で物語が描かれていて、絶え間ない音、カラフルでビビッドな映像、ローアングルの視点などは正に子ども目線。子供のころ目に映るすべてのものが新鮮に見えただろうし、いっときも黙ることなく騒いでたし、大人とは見える視界も違ったはず。
ムーニーたちは一言で言えば悪ガキ。食べ物は汚く食べるし大人に暴言吐くしいたずらばかりしてる毎日。「この子役カワイイ〜健気〜」なんて言葉出てこない笑 (近年の映画の子役はイイコ多すぎ!)でも無邪気で元気で等身大、こんな子供時代だったな〜って想う人はずっと多いんじゃないかな。

このまま子どもの夏休みのひと時を描いて終わるのかなーと思いきや、ムーニーの日常には少しずつヒビが入り出す。ほんの小さな事だったはずなのに、どんどん物事が大きくなり…

普通なら貧困でシングルマザーという重いテーマを扱うと暗い映画になってしまうけど、子ども目線から描く事で画面は明るくカラフルでポップになり、そこで起こっていることは子供が見たままの姿だ。子どもにはそれが大変なことなのか分からない、でも見ている私たちはどんどん大変な状況に追い込まれていくのをジワジワ肌で感じる。すごく上手い作り方だと思う。

ママの行動は大人から見たら人間として良くないことだらけかもしれないけど、いつも明るく子どもには優しくて正しくて前向きに生きていた。
昨日見た映画でも感じたけど、貧困だからといって環境が劣悪だからといって母親失格と決め付けるのは良くないのかもしれない。彼女たちも母親として自分が出来る限りのことを一生懸命して生きている。女ひとりで子育てってとても大変だと思う、そんな中で強く生きるこのママはすごくカッコよかった。

そして、ウィレムデフォー!!!!!!!!!!これウィレムデフォーのベストアクトじゃないかなぁ(そんなに映画見てないんけど)モーテルの管理人のおっちゃん、強面で口うるさくて無愛想で全然優しくない様に見えるけど、本当はモーテルの住人や子供たちを気にかけていて守っている。まさにみんなの父親の様な存在。この映画には彼以外ほとんど男性が出てこない。それ故か、本当にウィレムデフォーの不器用なでっかい愛を感じるシーンが全部心に染みる。血が繋がってなくても、恋愛感情なくても、どこか気に掛けてしまう彼の優しさ。すごく良かった、ほんとに、これだけでも見る価値ある。今思い出しても泣けてくる、ほんと優しい。

ぶわぁぁぁぁ、気持ちが溢れる、レビュー書いててまた泣けてきた😭なんでわしはこんなに泣くんや😭でも良かったんやほんとに、ラストもいいんや、ラストはそれまで溜めてきた感情が溢れてもう止まらない、すごい映画だよ…みんなも見てね😭映画館でみるのがおすすめ

(メモ)
・監督、今回も撮影の一部にiPhone使用
・35mmフィルム
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