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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のhorryのレビュー・感想・評価

5.0
素晴らしい作品だった。『タンジェリン』がそうであったように、社会の周縁で生きる人びとを、悲しみや哀れみの対象として描かない。

映画は子ども(ムーニー)の視線で撮られているため、ローアングルが非常に多い。子どもの目から見た生活は、決して惨めなものではない。
モーテルで暮らす貧困層の子どもたちは、観光客と次々と訪れ帰っていく町を遊び場にして生きる。親友と二人、「倒れても生きている」大木の上で、福祉サービスから得たパンにジャムをたっぷりと塗って「今まで食べたなかで一番おいしい」と笑いあう。
モーテルにかかった大きな虹、大人たちの喧騒を見物すること、いつも一緒に遊ぶ友だち。

もちろん、暗い影もさす。母から聞く「お金がかかる」「お金がない」という言葉や、定住できないこと、親友とのつきあいが突然、断ち切られること、知らぬ男が母と暮らす部屋に入ってくること。
けれど、ムーニーにとって、そうした暗い影も含めたものが生活であり、一方的に「可哀想」だとか「悲惨」だとか言われるものではないことが生き生きと描かれている。

そうしたムーニーの両面を知るボビー(ウィレム・デフォー)は、彼の良心によって彼女らを最低限のラインで守るのだが、その力も及ばないところにまで事態は悪化してしまう。

ホテルのバイキングで、母とムーニーが食事をするシーンは胸が詰まる。画面いっぱいに大写しになったムーニーの顔が時々、滲んで見えるのは、母の涙のせいだったのか、泣いてしまった私の涙のせいだったのか。

ラストシーンも圧巻だ。『タンジェリン』でもそうだったが、女性(少女)の友情のあり方が、強く美しく描かれている。
スピード感とブレのあるカメラが、手をつないで駆け抜ける彼女たちを追う。どこまでも、いつまでも逃げて欲しい。この社会はあまりに過酷で、あなたたちに厳しすぎる。そう願わずにいられなかった。
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