ラウぺ

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスのラウぺのレビュー・感想・評価

3.8
岩波ホールが連日満員ということで話題のドキュメンタリー。
途中休憩ありの上映時間205分の長尺。

ニューヨーク公共図書館は公立の図書館ではなく、ニューヨーク市からも援助は受けているものの、独立したNPO法人による私立の図書館で、92の図書館とリサーチライブラリーから成るとのこと。
ただ、こうした図書館の沿革や概要といった普通のドキュメンタリーなら必ず説明があるようなところは一切出てきません。
ナレーション無し、打ち合わせやディスカッション、読書会などの様子が淡々と映し出されるのみで、はじめはなんの様子だかよくわからないまま、長回しのカットを見続けることになります。
提供されるのは撮って出しといった感じの素材としての映像。
それをひたすら繋いでいくことで、次第に全体像を窺い知るようになっていくのですが、全てを観終わった後も、果たしてどの程度この巨大図書館の概要を掴めたのかはなんともいえず。「群盲象を撫でる」といったところ。
監督の意図としては完成された料理ではなく、無加工の素材を生きの良い状態で並べて、その一つ一つから何か感じてもらえれば、という考えであるように思われました。
講演の講師たちもそのスジでは有名な人物が登場しているようですが、クレジットも出ず、分る人だけ分かればよいというスタンス。

最初はこのスタイルに面食らうのですが、見続けていくうちに、最初は見えなかった組織として抱える問題や、運営上の課題、地元に根差した文化拠点としての重要さ、差別や格差といった社会問題といったところまで、おぼろげながら図書館とそれを取り囲む周辺の事情が見えてきます。

殊更にそうしたところを強調したつくりにはなっていないのですが、「単なる本の置き場ではない、図書館とは人なんです。主役は知識を得たい人々」といった言葉から感じる公器としての重み、専門的な質問にも確実に有用な回答で応じる職員の様子、特にセミナーでの非常に濃厚なディスカッションの内容には驚きます。
特にマルクスが奴隷制度について非常に明晰な分析をしてみせたことを語るセミナーの内容には思わず身を乗り出しそうになり(これは全部聞きたい)、アメリカ独立宣言の「・・・政府がこれらの目的に反するようになったときは、人民には政府を改造または廃止し、新政府を樹立できる・・・」という最もエモーショナルなくだりを手話通訳で2種類の感情表現の違いを比較する、といったところなど、こんなことまで図書館でやっているのか(もはや図書館というより文化センターか大学)という驚きは、アメリカという国の文化的底力の大きさを見せつけられた思いがしてくるのです。

普通の感覚ではちょっと長すぎで間延びした印象になりはしないか、危惧もあったものの、長回しのカットが多いということあるのと、素材が良いところを選んであるおかげで、観終わってみると「もう終わったのか」という不思議な感覚に捕らわれました。
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