このレビューはネタバレを含みます
No.3533
『因果の不可思議さを描いた、オーディアールのような映画』
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最高ですね。感動作です。まさに妙子の視点になってみると
「なんでこんなことになっちゃったのか」と、やるせなくなる。
私はラストシーン、妙子の表情で泣きました。冗談ではなく、ほんとです。
上っ面だけで見たらただの胸糞グロ映画ですが、
内藤監督の過去作を見て、彼が一貫して何を描こうとしてきたのかを考えながら見ると、
この映画の素晴らしさがよくわかります。
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まず、話の展開から「おや、これは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』みたいな話なのかな、と一瞬思います。家燃えちゃうなんて尋常じゃない出来事ですからね。
ところが、よくよく注意しながら見ていくと、
妙子はイジメの元凶であったはずなんだから、この映画の文脈で言ったら助からないはずなのに、結局「放火現場にいなかった」という因果で、彼女だけが生き延び、
逆に、本来なら最大の被害者で、誰よりも幸せにならなきゃいけないはずの野咲春花でさえ、
「復讐をしてたくさん人を殺した、という因果により」、助からなかった。
こんな怖い話はない。
こんなことを考えてたら、実はこの映画は、オーディアールの『ゴールデン・リバー』みたいな、因果の不可思議を描いた映画なんじゃないのか、という気すらしてきたのです。
(『ゴールデン・リバー』のレビューはこちら
https://filmarks.com/movies/74036/reviews/77681576)
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この『ミスミソウ』は、
エスカレートして、もはやエンタメの域まで達してるように見える、児童のとめどない暴力性を描いた
『パズル』
『ライチ☆光クラブ』
の流れに位置するようにも見えながら、一方で
イジメはなぜ起こるのか、加害者の家庭環境や周りの大人との相関関係はどう考慮するべきか、
また、いかに未成年者といえども、どこまで彼らに罪を負わせるべきか、という所までを描こうとした
『先生を流産させる会』
『許された子どもたち』
こっちの流れにも位置している。
いずれにしても、その内容と描写の過激性だけに囚われると、本質を一瞬で見失うし、こっちのメンタルまでやられちゃうから要注意である。
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どうしてもこの監督は、その過激な内容から、露悪的なグロ監督、みたいなイメージがありますが(実際そう思われても仕方ないんだけどもw)、
どの作品でも描かれているのは「未成年者の暴力、加害性、嗜虐性と、それらに対する彼らの向き合い方」なんですね。
しかもそこには、監督自身が教員免許を持っていて、特別支援学校の非常勤講師をしていたという、「教育現場にいた」視点が入っています。
だったらもっとその視点を生かして、リアルを追及して撮ればいいだろうと思うんだけどw、基本的にこの人はグロ描写、ゴアが好きなんですね。
こればっかりは趣味だからしょうがないw
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ただ、だからこそ、見る側のリテラシーが問われる。
ちょっと極論言うと、このままこの路線で、国内で撮り続けてても、この監督は「胸糞グロ監督」として誤解され続けるだけで終わってしまう可能性もあるから、(もちろんそうならないように日本国内の映画リテラシーが上がってくれることを望むけど)、
いっそ、海外へ打って出たほうがいいと思う。
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もちろんツッコミどころは山ほどあります。
演出上「あちゃー」っていうシーンもたくさんあります。
相場(清水尋也)がサイコパスキャラだとわかって、なんだか話がややこしくなってる感は否めないし。
ただそれは、まだ内藤監督自身が若いので(2018年公開時点で35歳)、やりたいことを全部やりたいお年頃なんだろう、ということで、
私の中では辛うじて許容範囲です。
これから、「足し算」ではなく「引き算」の監督になっていけばいいのです。
(現に最新作『許された子どもたち』では、かなり「足し算」が抑えめになっていて、社会派映画として一級品になっている)
まだまだ書きたいことあるけど、またあとで。