アオヤギケンジ

スリー・ビルボードのアオヤギケンジのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.3
主人公の女性が田舎道に立ってる3枚の大きな看板立てに、ある広告を出したことで町が騒然とする映画。長文です。
冒頭のタイトルバックでカメラが一回下に行ったあとにまた上がって、主人公のフランシス・マクドーマンを捉えるシーンがあるんですけど、それがすべてを物語っているような映画でした。
どういうことかと言うと、映画を通して視点が定まらないのです。良い人間と悪い人間みたいな二者択一ではなく、みんなそれぞれ信念があって、みんなそれぞれ罪を犯して、そして何よりも、みんなそれぞれ必死に生きているのです。
マクドーマンかわいそう、と思った次の瞬間には最低のことをする。そしてまた次の瞬間には応援したくなる。これが主人公のマクドーマンだけではなく、登場人物各々がそのような描写なのです。
私は思います。この映画を観て、観客たちは一体何を思えば良いのか? 主人公に肩入れすべきなのか? あるいは他の誰かに肩入れすべきなのか? この迷いこそが、今作品の根幹と言っても良いぐらい、この映画は私を思い悩ませてくるのです。
そしてずいぶんと思い悩んだ末、こう思います。つまりこれは生きることに対する問いになるような映画だったんだ、と。思い悩み、信念を持って行動し、間違え、人を傷付け、そのことでまた傷付けられ、それってまるで自分のことそのものじゃないか、と思うのです。
映画のあとの、これからの主人公や他の人々の物語。それはどこか遠くにいる彼女たちの物語じゃない。自分自身が選び取っていく物語なのです。