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スリー・ビルボードのYuのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.5

アメリカミズーリ州の片田舎の町で娘を何者かに殺された母親が、いつまで経っても犯人を逮捕できない警察に対し、町外れにある3枚の巨大な看板広告を通じて抗議する話。

ベネチアとトロントで賞を獲得し、先日のゴールデングローブ賞 でも4冠獲った今作は秀逸な展開性とメッセージ性をもった、前評判を裏切らない圧巻の脚本であった。

3枚の看板がもたらす影響は、3人の心の変化を呼び起こし、更には、アメリカ全体に奥深く潜んでいる醜悪に対する提言となり、その先の明るい希望まで指し示している。
先日観た、50年経っても変わることのないアメリカの闇を史実として描き出した「デトロイト」が、まるで今作品のエピローグであったかのよう。

しかも、この圧巻の脚本を見事に演じ切った3人の役者が、目を見張るほど素晴らしい。

フランシス・マクドーマンドが演じる母親ミルドレッドは、自責の念に苛まれながら
3枚の巨大看板を使って決して風化させないよう、署長の目を覚ます所から始める。
何度も何度も自身を奮い立たせ、孤軍奮闘する様は、アメリカの奥底に根付く醜悪を浄化し正しい道へ導く、数少ない良心そのものの象徴に見えた。

そして、余生を家族と穏やかに過ごすよりも3通の手紙を遺し、アメリカの希望ある未来を指し示す人情味あふれるウィロビー署長を演じたウディ・ハレルソンも、アカデミー賞助演男優賞ノミネートに相応しい。

更には、もはやノミネートは主演男優賞の間違いでは?と思わせる存在感を示したのがサム・ロックウェルだ。
「デトロイト」しかり、ミズーリ州で2014年に起きた黒人青年を殺害した白人警官を表しているかのように、人種差別者でキレやすく、権力を武器に威張り倒すディクソン。
そんな彼の心の揺れ動きを、サム・ロックウェルは見事なまでに演じている。
自分の手に及ばない権力にまで抗い、戦争が生んだ悪をも成敗しようとするラストは、もはやアメリカの進むべき姿そのものではないだろうか。

警察官に最も大切なものは愛だ。
拳銃はいらない。憎しみもいらない。
怒りは怒りを来す。

イギリス人監督が見たアメリカの闇に潜む正体。
timesupに湧く今のハリウッドに相応しい今作品は、来週には拍手喝采を浴びながらアカデミー賞脚本賞を手中に収めていることだろう。
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