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スリー・ビルボードのipekoのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.6
「怒りは怒りを来す」
頭空っぽな彼女の言葉が作品全体を表している。
犯人逮捕に至るまでのサスペンス映画だと思っていたがそうではない。黒人、メキシコ、同性愛者、小男など様々なものに対する差別という(アメリカにおいて特に色濃く見られる)社会問題を包括した、自己救済がテーマだ。
殺したのはお前だと言われても仕方ないような娘に対する態度に始まり、人を傷付けることになんの躊躇いもない主人公の数々の行動が気になって彼女に同情できないのが玉に瑕だが、それでも被害者の遺族という、本来ひたすらに気の毒がられて然るべき存在が作中で悪者扱いされ、また彼女の更生?改心?成長?を題材にする発想は素晴らしい。
一方後任署長の件では、社会的弱者が他の弱者を救ってくれるわけではないことに気付かされる。ディクソン、そう彼も社会的弱者の1人でありながら別の弱者を痛めつけていた。あの人が味方であいつが敵で、彼は善人で彼女は悪人…はっきりとカテゴライズできる人間はどこにもいない。無論現実でもそうだが。
では何が救ってくれるのかというとそれは、他者からの愛、赦し、もしくは自分で自分を許すこと。
それが難しいのだけど……
中盤辺りまでおいまじかというような人、脳みその代わりに藁が詰まっていそうな人、よく分からないけど過激な人などのオンパレードでしんどかったが、主題とするところに気付いて初めてあらゆるシーンが意味を持ちだす。
外さなくても好きな作品にはならないだろうなと内心思っていたけどなってしまったな。怒りは怒りを来す、私も心に刻まなければ。
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