ぽんこつどらごん

バース・オブ・ザ・ドラゴンのぽんこつどらごんのレビュー・感想・評価

4.0
事実以上のものが得られるかもしれない映画

ブルースリーとウォンジャックマンの決闘を描いた本作。あらゆる証言、あらゆる説が存在するこの決闘を描く以上、どこかしらから批判が来るのは避けられない筈である。実際この映画はブルースリーの遺族をはじめとする多くの人々から非難された。史実とされている話と違う部分は多いし、ブルースリーが好きな人ならば主演のフィリップ・ンの演技も好みが分かれるだろう。しかし「水のようにあれ、友よ。」というブルースリーの名言があるように、頑なに自分の中のブルースリー像や決闘の事実に囚われすぎる事は良くないと私は思った。「燃えよ剣」など歴史の事実とは異なっていながらも古典的な名作として認知されている作品もあるように、史実や歴史上の偉人に対してそれぞれの解釈があっていい筈だ。特に未だに真実が分かっていないウォンジャックマン戦だからこそ、その新たな可能性をこの映画は示してくれたのではないだろうか?それこそ「水のように」この映画を受け入れるを事ができたのなら本作は非常にいい映画だと私は考える。
本作の良さを書く上でまずブルースリーを他人が演じる事について述べたいと思う。ブルースリーが偉人として認識されている証拠に、ブルースリーを他者が演じた映画は多く存在する。「ブルースリー物語」、「李小龍 マイブラザー」、中でも気に入ってるのはドラマ「ブルースリー伝説」でダニーチャン演ずるブルースリーである。イップマン3で彼が再びドラゴンになると聞いた時は実に俺得であった。これらの作品の面白さは「神になっていく人間の姿」を垣間見ることが出来る点だと私は思う。ブルースリーはあらゆるファンや評論家によって「神」として崇拝、考察されているのは紛れもない事実である。しかしそこに至るまでの過程を私達は知らない。だからこそダニーチャンをはじめとする「神に限りなく近い人間達」によってて「まだ人間であった頃のブルースリー」の姿を感じる事が出来るのは他にはない独特の面白さがあるのだ。本作のフィリップ・ンもカンフークエスト(武術の達人同士が手合わせするTV番組)で詠春拳をはじめとするあらゆる武術を学んでいた事を知っていたため個人的には納得の配役であった。特に好きなのはワンインチパンチを決めた後、人差し指を立てて「チッチッチ」とする仕草である。ブルースの顔は下を向いたままなのに絶対にドヤ顔をしているとわかる名シーンである。このように今回のブルースリーは少し子供っぽい面が強調されている様に感じた。それはおそらくウォンジャックマンという人物に出会って成長する姿を描くためにあえてそうしたのだと思う。そのウォンジャックマンの人物像も実はブルースリー本人をモデルにしていると私は考える。ウォンは試合で事故を起こしてしまい、自身を律する為に単身渡米する。これは香港で悪さばっかりして、アメリカに行く事になったブルースリーに重なる。レストランで皿洗いする所まで同じである。そう思うと本作はブルースリーが自分の影と出会い、神として完成する物語なのである。決闘の結果の真相は未だに定かではない。しかしウォンジャックマンと闘いが彼が詠春拳から離れて後にジークンドーと呼ばれる武術を生み出すキッカケになった事は確かである。私達が知っているブルースリーは彼本人ではなく他の誰かの影響が大きかった事を本作は強調したかったと私は思った。よって「バースオブドラゴン」は人間が神になる過程を見事に描いた佳作であると結論づける。

ps 本作の「カンフーは核兵器より強力だ!」というセリフは後世に語り継がれるべき名言だと感じる。