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ブリグズビー・ベアのJIZEのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
3.8
赤ん坊の頃に誘拐され外部と遮断されたシェルター内での生活を約25年間送った青年が外の世界への一歩を踏み出す力強さを描いた青春コメディ映画‼冒頭で"グリグズビーベア"のTV映像がながれナレーションで「世界は不思議で謎がいっぱいだ...」という珍妙な世界観のあらましがまさに主人公ジェームズのボヤけた視点と併さり寓話的に映し出される。おもに監禁,隔離,洗脳など主人公に課された絶望感とは裏腹に超前向きな幸福の定義を再考させられる作品だった。また"時代に取り残された男が自力で適応していく話"とも称せる。いわゆる20年以上も閉じ込められていた事実が作品の主眼ではなく脱出してからの一人の青年の視点から導かれる機敏に大まかな軸点が置かれていた。たとえば近年で「10クローバーフィールド・レーン」や賞レースを賑わせた「ルーム」など"脱出前よりも脱出後の動向"に重要な趣が置かれる系譜にかなり比類している。全編は(壁際に遊星からの物体Xのポスターが貼られてるなど)古典SFのメタ世界を意識させながらも弱者が逆境から這い上がるジュブナイル要素に特化させている。また本編では偽親役のマーク・ハミルが「スターウォーズ/最後のジェダイ」よりも落涙するほどの正しい使い方で真の役割をマジにまっとうしているため年老いたホンモノのルーク・スカイウォーカーの姿と重ねて俺は観てしまった。本作は今まで"ジブンにとっての全て"と信じ込んでいたものがある日とつぜん終焉を迎えた時に人はどうするか...焦点の当てかたは現実的で開かれた作品でした。

→総評(異常者に監禁された青年の闇と希望)。
作品のメインテーマとなる"好きな事を諦めれるのか...?"に対して主人公が最後まで軸をブレずにジブンの感じたコトやブリグズビーベアのTV番組だけ観て想像していたコトを形に仲間たちと実現させていく過程は不器用であるが郷愁感を憐れむようなエモーショナルが作品内に染み込んでいたように感じました。非日常に居た人間が日常の世界に順応していく一見スリラー性を孕みながらも完璧な緩みあるコメディへ昇華させている手腕はやはりうまいなと感じる。また製作陣にフィル・ロードとクリストファー・ミラーが参加してるのも本作に華を添えた部分だったのでは。序盤の取調室で警官から瓶型のコークを受け取ったジェームズがそれに口をつけた瞬間に古い世界が新しい世界へアップデートされていく感覚など至るところに新と旧の対比がデフォルメされている構成も冒頭のシェルター生活での遮断された時間軸が活き良かったです。ただ作品の苦言を呈せばジェームズ自身の"社会不適合ぶり(愚痴,弱音,現実逃避)"をもう少し時間を割いて描き込んでも楽しめた気がした。いわゆる底辺の描き込みが20年以上も他人に拉致監禁され謎の教育番組を永遠に観せられ洗脳されてた割にはそこを抜け出した落差があまり感じとれず薄っぺらな印象をぶっちゃけ覚えてしまう。もう少し内容に事実性があれば奥行きを持たせれてた事は否めない。あと監禁描写のディテールももうちょい長めに観たかった。このように古き良きVHSテープがもたらすお気楽な着ぐるみもの映画として観たうえでは幸福の定義や好きな事を追求し続ける折れない情熱心みたいな意外と深くて心中に刺さる。若者のフィジカル面に特化させつつもインディペンデント系の重厚な良作掘り出し物映画でした。
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