金子

007/ノー・タイム・トゥ・ダイの金子のレビュー・感想・評価

4.6
シリーズ25作目、ダニエル・クレイグが演じるボンド第5作目の作品。
ダニエルは今作が自らがボンドを演じるのは最後であるということも示唆している。

ストーリーは前作の続きから始まるので、前作『スペクター』を観てから今作を観られる事を推奨します。

最初の15分でこのシリーズの根幹というか、楽しみ方を一気にレクチャーされる感じ。
ジェームズ・ボンドという人物が実に60年近くに渡って愛される理由を改めて教えて貰えると共に、
「ああ、自分は007をこれから観るんだ」という事を改めて教えてもらいました。

物語の内容への言及は控えますが、毎回の事ながら明快であるにも関わらず、非常に魅力的な物語の展開は見事なものでした。
007と言えば!な台詞も勿論ありました。

そして、前述したダニエルのボンドがラストになるという事をきちんと物語の中に表現として盛り込んでいるのが良かったです。
ああ、これで最後なのか。と知らなくてもそう捉えられる物語を作られている。
ラストはちょっと賛否分かれるかもね。
ちょっと過剰な感じになったかも。

今回魅力的だなと感じたのは、アナ・デ・アルマス演じるパロマ。
当初、予告編を見た限りではボンドガールは彼女なのではないかと思っていたのですが、物語の中では脇役の部類でした。
しかし、彼女のアクションシーンが今回のアクションの中では非常にいいと思います。
ボンドの力強さに重きを置いた美しさと対比する様にしなやかで流麗。
共闘のシーンはお互いがお互いを引き立て合いつつ、掛け合いもウィットが効いていて見事なものでした。
これからも非常に注目したい女優さんでした。
そして、今回の悪役のラミ・マレック。
『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ役が記憶に新しい彼ですが、見事に気持ち悪く、不気味な役を演じ切ってくれています。
非常に現代的な気持ち悪さのある悪役。
現代にリンクする嫌悪感を持つ人物を絶妙に描写しています。
小物っぽい感じがありつつ、絶対関わり合いになりたくない種類の人物でした。

今作を観て、ジェームズ・ボンドという人物像が哀しいかな、どんどんと現在では理想の紳士像からは程遠くなってるのかもなー?と思わされてしまいました。
確かに全体を通してメチャクチャ格好良くは映るんですけど、細かく観ていくとヤバい事ばっかりというか。
昨今の日本でこの人間を主人公にした映画を撮ったら様々な抗議を受けそうな人間像ですもの…。
シレッと普通だったら犯罪行為な事をやりますからね。
軽犯罪の部類に入る事ですけど。
けど、この姿勢が一種の格好いいヒーロー像として描かれて全世界にリリースされているということはそのキャラクターが愛され続けているという事でもありますが、そうでなければ成立してないのかもしれませんね。
豪快な性格と言えば聞こえはいいものの、やってる事は結構クズの部類に入ります。
本当に全時代的なキャラクター像だと思う。
しかし、時代の波に左右されないヒーロー像が支持されているというのは、少し嬉しくもあります。

そしてやはり美術関係が非常に美しかった。
セットは勿論のこと、衣装や車、銃など、007の世界を作るヨーロッパの文化を結集したような世界作りは心奪われました。
特に、ボンドの衣装は全てTOM FORDが監修したという事でどれを取っても格好いい。
やっぱりこれ位の年月を経なければ、TOM FORDを着るのは難しいのかな?と思わせられます。
イタリアンなスタイルが多いように思いますが、またそれがいい。
少し前に流行したちょいワル親父など足元にも及ばんよ!

という事を書き綴った訳ですが、アクション映画としては非常に上品かつ、美しい内容でありました。
やはり、このシリーズは常に上品でありながら、若干下世話であるのは大きな魅力なのだと思いました。
アクション映画として全てが非常に高度な所で収まっている作品だと思いました。


鑑賞前の心得としては、この映画は近年稀に観る長さなので、鑑賞前には水分を控え、御手洗いに必ず行かれる事をお勧め致します。
それ程までに長い…
金子

金子