Toshiko

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのToshikoのレビュー・感想・評価

5.0
 2021年公開作品。監督はキャリー・ジョージ・フクナガという日系四世(「IT /それが見えたら終わり」などの作品がある)。
 私としてはちょうどこれまでの007全24作品を観終わったタイミングだったし、ダニエルボンドの最終作と聞いて、やはり劇場で観たいと思った。観て数日経ったけれど余韻が消えない。集中してスクリーンで観てよかった。2時間43分の作品なので、いつでも観られるようになったら躊躇してしまいそうでもあった。

 素晴らしい完成度だった。いろいろな意味で規格外の007だと思う。尋ねられたら私は迷わずこの作品を一番に推す、くらいの出来。

 従来の007と異なる点は数多い。印象的なところをネタバレしない範囲で書くと、とくに本作ではM、Q、マネーペニーがボンドと共によく動き回る。ミッション・インポッシブルみたいな雰囲気が漂うので、これは違う、と思う人もいるかも。ラミ・マレック(「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ)の悪役ぶりがはまっている。片目が義眼の悪役も登場していて、このあたり、身体の一部が改造された悪役が跳梁する007の系譜を感じさせる。CIA諜報員の女性(役名パロマ/役者はアナ・デ・アルマス)が、出てる時間は短いけどすごく素敵。新007を演じたラシャーナ・リンチは黒人女性。次回作からはどうなるのだろう。
 また、観ている最中、ずっと二代目ボンドの作品"On her Majesty's Secret Service"(女王陛下の007)のイメージが湧いてきて消えなかった。南イタリアの海沿いの道をオープンカーで走る場面などはとくに似ていたが、後から読んだブログに詳しく書いている人がいて、ルイ・アームストロングの同じ曲が使われていたことがわかった。そんなことも同質性を感じた原因なのかもしれない。
 Q役のベン・ウィショーが、007作品を「このフランチャイズがどこへ向かうかは誰にもわからない」とインタビューで語っていたが、今までのハードボイルドなボンドがダニエル主演になってこれだけ人間臭くなり、本作では今までのボンドができなかったことをいくつかやり遂げたという感じがするくらい進化している。

 Filmarksを見返すと、私は、ちょうど3年前の2018年11月から007を観始めている。もともとしっかり観たこともないのに「007は、ジェームズ・ボンドっていう男がいいクルマに乗って、いつもホテルのバーでカクテル飲んで、綺麗な女の人を次々ひっかけてポイ捨て、仕事はよくわからないけどいつも命懸けで、最後はラブシーンで終わる映画」だと思っていたので、知らずに何も言えない、きちんと観ないとフェアじゃないなと思って始めたことだった。最初はショーン・コネリーの"Goldfinger(1964)"からスタートで、作出順に観たわけではなく、その時の気分で選びつつ24作品を観終わったが、途中、やはり退屈に感じることもあり、消化試合気分になったりもした。そのうちショーン・コネリーも亡くなってしまった。全員のボンドの中では一番好きなボンドだった(いちばん女たらしだったが)。
 ゆっくり3年かけて観終わってみれば、ただの007好きになっていた。初めからわかっていて捕まりにいったところもあったのかもしれない。人生にはそういうことがしばしばある。
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