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顔たち、ところどころのnaorinのレビュー・感想・評価

顔たち、ところどころ(2017年製作の映画)
3.8
昨今の壁面アートといえば
プロジェクションマッピングなど
最先端の技術がよく話題になるが、
今世界的に注目を集めている
ストリートアーティストであるJRが
“ヌーヴェルヴァーグの母”
アニエスと共に取り組むのは
撮った写真を大きく
モノクロ印刷して糊をつけ
人の手で貼り付ける、という手法で
それは
“壁に落書き”のバンクシーと同じく
実に古典的な壁面アート。

けれどバンクシーが神出鬼没に
シニカルな社会風刺や政治的な
メッセージを残すのに対して、
彼らのアートはストレートで
もっとパーソナルなものへの
問いかけ、訴えであり
人との関わりなしには決して
生み出せないものである。
旅に出て、人と出会い、
直接言葉を交わし
その土地の歴史やそこに根付く
人々の想い、仕事への誇りから得た
インスピレーションを
大胆にサクサクと形にしていく様は
なんとも自由で
見ていて気持ちがいい。

芸術の製作過程は孤独なもの
という既存イメージを打ち破り、
町や人を大いに巻き込んで
創り出されるビッグな作品は
とてつもないエネルギーに溢れ
それを見た人々の足を止め
自然と対話させてしまうような、
アートとして実に正しい力を
持っている。

出てくる素人さんがみんな
アートの一部となった自分を見て
みんな少し照れながらも
嬉しそう、誇らしそうで素敵。
壁に並ぶ顔たちを思い浮かべると
通勤電車で目の前に並ぶ
無表情な顔たちとの落差に
どんよりした気持ちになるけど
なんなら、彼らは日本の疲れた
サラリーマン集団だってサクッと
素敵なアートにしてしまいそうだ。
彼らが切り貼りするのはそういう
ありのままの姿と日常、
人の尊厳、愛すべき人生。

ゴダールの件は残念だが
それよりポニー氏ほんと何者なん笑
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