naorin

夜が明けたら、いちばんに君に会いにいくのnaorinのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

この作品が今公開されたのは、まさに完璧なタイミングだった。
望まずに着けるマスクがいかに息苦しく我慢ならないものかを、私たちは身をもって体験した後だからだ。
だからこそ、逆にマスクをつけた瞬間に呼吸が深くなる茜の心の闇の深さが痛いほど伝わってくる。
マスクに自傷行為、不器用な茜は
ある意味わかりやすいSOSを出し続けていた。
けれどそんなSOSも、彼女自身に興味を持ち真摯に向き合わなければなかなか届かないものである。
能天気に見えるクラスメイトたちもまた実は彼らなりの闇を抱えながらも、器用に隠しているだけなのかもしれないのだ。マスクとは別の形で。
それにしてもクラスの集合写真のシーンはいただけないけれど。担任何しとんねん。
必要があれば支え、必要以上は踏み込まない、心優しい親友の存在が救い。

私は原作未読のまま映画に挑んだので
(もちろんこれから読むつもり)
茜の心の機微が主軸の物語と思い込んでいたのだが、
途中
「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」という
この印象的なタイトルの“主語”を取り違えていたことに気づいた。

入場者特典として配布されたカードにも、こんな言葉があった。
“You made my dawn”
少し意訳すると、
「あなたのおかげで夜明けを迎えることができた」
幼い青磁にとって闘病生活は辛く、永遠に続くとも思える暗く深い夜の闇のようであった。
それでも夜はいつか必ず明けると、記憶の中の綺麗な思い出を支えに、茜色の朝焼けを待ち続けた。
そして寛解後、きっと茜を探し出し、同じ学校に入学したことから始まったこのストーリー。
中盤、急に演出がホラー映画テイストになった時は一瞬戸惑ったけれど
一寸先も見えない暗闇に青磁が身動きさえ取れず飲み込まれてしまいそうになっているところに
向こう側から光を携えた茜が現れる、というメタファーが込められたシーンだったのだろう。
前半と後半で、屋上へのハッチで手を伸ばす方が変わる対比もとても良かった。

赤と青、正反対で、うまく混じらなさそうな色が
お互いを包み、赦し、寄り添うように溶け合う空は泣けるほど美しい。
終盤の屋上のシーンは、青春映画屈指のエモさといっても過言ではないだろう。
あそこだけでも映画チケット代の価値あるし、2人の一晩が大人になってからの私の10年分くらいの濃密さで羨ましくてまた泣けた。若さって尊いね。
お父さんも良い味出してて好き。カフェ行きたい。

夜きみは単なる学園ラブストーリーではないと
観た人が口を揃えて言っているのを見かけるが、より多くの人にそれを実感して欲しい。
この作品の魅力は例えどんなに称賛の言葉を並べても完全には伝わらないし、私とあなたの目に映る色は、違うものかもしれないから。
それでいいし、それがいい。
私は今後、綺麗な空を見上げる度にこの作品を思い出すだろう。
間違いなく、世界の美しさに気づかせてくれる作品だ。
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