菩薩

顔たち、ところどころの菩薩のレビュー・感想・評価

顔たち、ところどころ(2017年製作の映画)
4.4
見えなくなるもの物と見せない物と、忘れて行く事と忘れられない事と、いつまでも残る物とやがて消える物、そして人はいつか、必ず死ぬという事。ヴァルダとJR、歳の差はもちろんあれど、二人の間に溝は無く、しばしばライバルとして火花を散らす一方で、作品の共同制作者の域を超えて、時に恋人の様に、時に親子の様に寄り添う姿に涙が止まらなかった。きっとヴァルダはもう少ししたら死んでしまう、JRはそんな彼女をいつまでも忘れないだろうし、ヴァルダもJRの優しさを最期の時まで忘れないだろうと思う。こうして本来出会うはずで無いあろう二人を繋ぎ、出会うはずで無いあろう人々と巡り合わせ、そしてそれが一つの作品となり我々の元へ届けられる事実そのものに、芸術の価値の尊さを感じる。貴方がかつてそこにいた事、貴方が今そこにいる事、貴方がこれからもそこにいるであろう事、そんな「存在」自体が何よりも美しく、何よりも愛おしい。それは姿を現さないからこそそこに在り!と強烈に印象づけるゴダールにも言える事、そしてもうこの世にはいないドゥミを始め、彼等が口々に語る人々、彼等の思い出の中に生きる人々も同じである。写真、映像、そして映画、記録、記憶をこの世に留める媒体として、そして未来へ繋げる為に人類が生み出した大いなる発明、これは人と場所と記憶にまつわる物語、自分もこの作品を生涯忘れる事は無いと思う。
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