こまち

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のこまちのレビュー・感想・評価

4.6
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良くも悪くも、胸にずしん、と響く映画に出会うとその作品のレビューの一言目はいかにして始めようかと悩む。
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#タクシー運転手約束は海を越えて を鑑賞した私は帰りの道すがら、どんな言葉が相応しいだろうとずっと考えた。
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―泣ける映画―
いやいや、そんなチープなんじゃだめ。
―命をかけて守り抜いた約束―
だめだ、そんなハートフルなんじゃない。
―いかにしてここまで人は残忍になれるのか―
ん〜…違うなぁ。
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結局相応しい言葉を見つけられないまま、でもこれを見たことによる興奮を何かに向けたくて今これを書いている。
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※あ、ちなみに長くなります※
さて、そもそも。この作品は1980年韓国の光州にて起きた#光州事件 を題材に描かれたもの。
当時の韓国は独裁政権時代が暗殺により終焉を迎え#ソウルの春 と呼ばれる時代が到来していた。
学生も市民もこれまでの抑圧から解放され、希望を持って、自分達の持つ権利を大きく謳うためのデモを起こしていた。
そんな空気感の中、父子家庭で貧しいながらも娘と二人三脚で生活するマンソプが今回の主人公。
彼なりに仕事を頑張ってはいてもなかなか思うような稼ぎにもならず、たった一人の愛娘には我慢ばかり。なんとかしないといけないな…という矢先、外国人記者をソウルから光州まで送って帰ってくるだけで大金が貰えると耳にする。
ここぞとばかりに、なんの状況も知らないマンソプは高速でも4時間ほどかかる道のりを、言葉もあまり分からない外国人記者を乗せて光州へ向けて車を走らせる………。
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―以下ネタバレあり―
全てを見終わると、序盤のマンソプの緩さに涙が出るような、救われるような、なんともいえない複雑な気持ちになる。
光州への道も既に通行禁止の立て札が。それを無視して進むと検問所まであり軍は帰れと言ってくる。
マンソプには訳が分からない。
それもそのはずで、当時は新政権にマスコミなども統制されていたため既に大きな衝突が起きていた光州の状況などソウル市民のマンソプには知る由もなかった。
光州へ入ってからも印象的なのはマンソプの「意味が分からない」という、ただただ困惑する表情。
何が起きているんだ?と聞いても「僕達はなんも悪いことしてないのに軍隊が殴ってきたり発砲してきたりするんだ」と。
戒厳令という、緊急時において国民の権利を保証した憲法、法律が軍の指揮下に置かれる状況となっていた光州はまさに、「国民の権利が軍の指揮下にある」状況で、自分達の持つべき権利を主張している市民に対して武装した軍が暴力を奮っていた。
マンソプはそれまで、「韓国ほどいい国はないんだぞ」と思っていた。本気で。心から。自分だって兵隊にいたこともあるけれど、大変だけれど軍はあくまで市民を守るものなのだ、と。学生デモが暴徒化するからそれを抑えようと彼らだって動いているのだ、と。
そう考えていたマンソプの目の前にいるのは、「暴徒化した市民」ではなく、明らかに過剰に暴行を加える軍隊だった。
目で見たものに頭が追いついていかない。
事態はどんどん悪化していく。
ところが、そんな状況の中、触れ合う光州人の多くは思いやり深く、親しみやすい人ばかり。
なんなんだこれは。
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そう、なんなんだこれは。
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マンソプも思っただろう。光州市民も思っていただろう。ピーターだって思っただろう。
そして今作では描かれていないが軍隊の人々の中にも思っている人は多数いただろう。
なんなんだ、これは。
明らかにおかしいのに、もう引き金が引かれてしまった今、誰にも止められない。止まらない。加速させる人々はいても、もう5月18日より前に戻ることはできない。
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光州のこの事件に限らず、私たちは改めて、これまでの2000年分の「歴史」の上に生きていることを今一度考えなければいけないと感じる1日だった。私たち自身がどういうルーツを持ち、私たちの祖父母が過ごした「日常」がどのようなもので、当時の日本が周辺諸国、更には世界各国とどのような状況にあったか。そしてさらにそこに住む人々にはどんな「ストーリー」があったのか。
映画は娯楽のひとつでももちろんあるのだけれど私にとってはそれ以上に「学び得る 教材」でもある。ひとつの作品を見た時に感じることは人それぞれで、もちろんいいのだけれど興味を持ってその作品に手を伸ばす以外の人にこそ届くべき作品が多くある。
とくに史実を元に描かれている作品はそう。そしてそういったのに触れる時はできるだけ多角的に見れるように作品を選びたい。
私たち一人一人、ではなく、「日本」とし捉えた場合。時として被害者であったであろう。時として加害者であっただろう。
そのどれに対しても人は知るべきであり、シェアされるべきだと思う。
そして、それについて議論するのが憚られるような時代は早く終わってしまえばいい。
原人時代から1000年どころではない時間を重ねて人間は進化してきているはずなんだ。
過去の失敗を繰り返す時代は終わらせよう。今一度、過去を学び、己を省みて、古きを活かす時が来ている。
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なんて語りが止まらなくなる。レビューになったかな(笑)ぜひ、見てみて。
#映画部#映画#movie#cinema#映画好き#映画好きと繋がりたい#洋画#邦画
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