とうじ

追われる男のとうじのレビュー・感想・評価

追われる男(1954年製作の映画)
3.5
主人公が身体障害者(片足が動かない)の西部劇。
そして、彼を匿い、“自分が一人前の男だという気持ちにさせなければならない”と、彼を保安官補佐に任命し、活躍させようとする男を演じるのが年配のジェームズ・キャグニー。
この時代のマスキュリニズムが、如何に身体障害を持つ人にとって、真綿で首を絞められるようなものだったかがわかる。
往来の価値観へのあからさまな攻撃にはなっていないのだが、それに対し疑問を投げかけていることは、「黒の報酬/ビガーザンライフ」を撮ったニコラス・レイが監督していることからもわかる。
本作でのキャグニーは、過去に自分の不本意で刑務所に入れられたことがあり、その不幸をもってしても、自分の力で人生を取り戻したことを誇っている。そして、その経験を厄介にも、身体障害の疑似息子に反映している。「障害だろうがなんだろうが、悪く弱い男にはなるな」と教育する。もちろん、障害を持っているからと言って、犯罪に走ったりすることは許されない。
しかし、その単純化された比較がマスキュリニズム的価値観の元、歪められたものであることは言うまでも無い。
前科持ちであることと、障害を持っていることは、社会で腫れ物扱いされるという点では一緒かもしれないが、マスキュリニズムの観点に立った時に、その差は一目瞭然であり、それこそ主人公を苦しめているものなのである、ということをキャグニーは理解しない。
そして、そのコミュニケーションの取れなさが、本作の悲劇的な結末に繋がる。
本作は、「黒の報酬」と同様に、その悲劇性を仰々しく押し出さない。しかし確実に、それは不気味に底光りして、本作をみた人に違和感を感じさせるようになっている。

単純に映画としての歯切れの悪さは否めないが(キャグニーの恋愛パートなど)、興味深い西部劇であることは間違いない。
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