MasaichiYaguchi

悲しみに、こんにちはのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

悲しみに、こんにちは(2017年製作の映画)
4.0
スペインの女性監督カルラ・シモンが自身の幼少期のことをもとに映画化した本作は、両親を病気で失って叔父夫婦に引き取られた少女フリダの揺れ動く繊細な心情に寄り添うように物語が展開していて、いつの間にかその世界観に引き込まれてしまう。
1990年代のスペインのカタルーニャ地方を舞台に、両親を失ったフリダの初めて尽くしの日々、田舎暮らし、それも叔父たちと過ごす一夏が叙情的に描かれる。
初めて尽くしの環境の中でフリダは子供とはいえ、カタルーニャの田舎で叔父夫婦の〝家族〟として一緒に暮らせるのか、自分の居場所はあるのかと〝模索〟する。
「子供は天使にも悪魔にもなる」と言うが、このフリダの子供らしい〝模索〟は、見ていて危うくて痛々しい。
そして、その〝模索〟を受け止める叔父夫婦は、時に苛立ち、時に怒りを覚えながらも、頭では分かっていても両親、特に母の死を受け入れていないフリダに、何とか新しい生活に馴染んで家族の一員になってもらえるよう努力する。
この作品では、時に切ない状況にやけを起こすフリダの葛藤だけでなく、過酷な状況にあるとはいえ、血の繋がりがなく、反抗や反発を繰り返すフリダを家族として扱い、自ら彼女の〝母親〟になれるのかという叔父の妻マルガの葛藤も並行して描かれ、作品に奥行きを与えている。
国や設定、ストーリーも違うが、本作は是枝裕和監督の「そして父になる」に相通ずるものがあると思う。
紆余曲折の末に辿り着いた終盤は、フリダもマルガも現実と向き合い、一歩先へ踏み出したような印象を感じる。
だからこそ、ラストシーンでのフリダが何時迄も心に残ります。