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スパイダーマン:ファー・フロム・ホームのJIZEのレビュー・感想・評価

4.6
全世界の人口を半分に消し去った宿敵サノスとの激戦後の世界を舞台にピーターたちが夏休みのヨーロッパ旅行先で水や炎など自然現象を操る軍団"エレメンタルズ"に襲われる様を描いたシリーズ第二弾‼︎世界最速公開の初日に字幕で鑑賞。まず中盤でピーターが深刻な表情をして発する「今年の夏は遊べると思った。好きな子と夏休みを満喫したいんだ!ただ、もう無理だ…」というヒーロー稼業に及び腰で真価が問われる激戦に身を投じる様はエモーショナルで胸を打つ。冒頭でいきなり主要ヴィランである岩の怪物"サンドマン"が肉体を砂に変えて持ち前の巨体でメキシコ郊外の街に登場し暴れ回りフューリー一行とブツからせるくだりは出番こそ少なめだがアガった。まずパラダイムシフト的に大騒動を巻き起こした超重要な前作『アベンジャーズ/エンドゲーム(2019年)』を経た全世界を揺るがす事後の世界観という時間軸に特別感とエモさがあり、シリーズを追ういち観客としても"あの英雄"なきいま、ヒーローの片鱗を背負うスパイディの苦悶した様は感慨深いものがある。また同様に本作の平行線上にあたる前作の『スパイダーマン ホームカミング(2017年)』に続く新たなスパイダーマン単独作としてだけでなく、MCUフェイズ3全体を締め括る潮流の転換期としても間口が豊富で、今後の展望含めて存分に価値のある作品だったのではないか。またソーやキャプテン・マーベル、Dr.ストレンジなど同じ戦友の名前がピーターの口から普通に滑り落ちて居場所を尋ねて頼ろうとしてる感じも共通世界の並べ立ては気が利いてておもしろい。また今回ほぼスパイディ以上に活躍を担った主役級のミステリオ(=イタリア語で"謎の男")ことベックの役柄も精一杯活かし切るキャラの使い回しがよい意味でモンスター級に容赦無く、カメレオン俳優の異称を持つジェイク・ギレンホールの発狂芸と共に芝居が冴え渡っていたように思う。狂気を宿す役柄との整合性もありジェイクを起用したのはかなりの勝因である。またミステリオに限ってはコミック版の勧善懲悪な印象を覆す意味でも、予告編の宣伝の仕方は観客に先入観を挿しこみ惑わせる感じが良かった。いわゆる本編の前半と後半で作品のトーンが真逆と言っていいほどだいぶ変わる。本作は主人公ピーターが師と仰ぐアイアンマンことトニー・スタークから託された"大いなる力には大いなる責任が伴う"ばりのヒーローとしての責任や使命を受け継ぐ感動と興奮が上手い具合にヴィランと対峙する主題と重なっている。つまり前作でのヴァルチャー戦では現実的な"経済格差"を縦軸に据えた社会性が奥行きにはあったが、今回でもヴィランの特性に合わせた設定が張り巡らされている。全ての憎むべき元凶が実はあの人という矛先とピーター自身が恩師から託された試練を乗り越える双方の信念がぶつかるアンチを踏んでたように思う。

→総評(フェイクの連鎖で史上最大の宿敵誕生)。
総じてスパイダーマンの映画にしては直接的な殴り合いの活劇シーンを抑えめに、頭脳戦に寄せたスリラー性に趣を置く一品である。前回よりは色々と面白味と世界観がグレードアップした所感。簡潔に云えば前半は大満足。悪く云えば後半から仕掛けの発動がピークを迎えて緩まるため極端に失速してしまう造りなのかと感じた。いわゆる主要ヴィランの個性が強烈で、前半は特にスパイディの主役的な存在を食ってたように感じる。また序盤のスパイディやフューリー、ミステリオの三者三様が超自然的に派生するエレメンタルズの撃退に向けチームプレイを見出す辺りは胸熱でアッセンブル級の興奮が絵的にもある。チェコのプラハのお祭りの場で高熱を発する"モルテルマン"とのそれぞれが移動しつつ空中を飛び交い闘う構図やスパイディが敵を怯ませてミステリオが緑色の光線を放つ連携感など待ち侘びたバディ描写の映像をストレートに浴びせられる。ミステリオの存在がアイアンマンと被さる皮肉や彼が提唱する「世界を救うには犠牲が伴う。人々が死ぬこともある」という犠牲前提でのブッ飛んだ思想もピーター自身へ投げ掛けるメッセージ性があったんじゃないか。ヒーロー倫理みたいな思想の側面が深掘りされる。作品の苦言はそもそもどこからが虚構でどの話までが事実なのか、観た人なら察しがつくよう真実が明るみに出た後だとスケールダウンしてしまう話にも思える。特に終盤で明かされるニック・ミューリーの実はこうでしたのオチは要らない気がした。MJとピーターの恋模様も特段ヴィランと絡ませてドラマチックかつエモーショナルに展開するわけでもないため付属感がややある。最終決戦の拳をぶつけ合わないコレじゃない感やクライマックスがやや手薄な点も否めないだろう。エンドロール後の付け足し映像でも一捻りありトンデモない事になってました。というよう故郷であるニューヨークを遠く離れて、欧州の休暇先ヴェネツィアやプラハ、ロンドン市街で巻き起こる壮絶な激闘の全貌を今年の大一番の夏映画としてぜひ楽しんでもらいたい。
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