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ジョン・ウィック:パラベラムの湯呑のレビュー・感想・評価

4.6
このシリーズ、1作目の時点では車を盗まれ愛犬を殺された元殺し屋が、お返しに人をぶち殺しまくるというニューロティック・スリラー的な佇まいだったのが、2作目では世界中で暗躍する殺し屋組織の過剰な設定が盛り込まれ(『キングスマン』みたいな感じである)、ほとんど不条理劇の様な展開へとシフトしていった。今作はその2作目のラストシーン、主人公ジョン・ウィックが組織の掟に背いた為に世界中の殺し屋から付け狙われる事になる、という場面をそのまま引き継いで話が始まる。ここに、作り手の漢気を感じた。こんな無茶苦茶な話の続きを作れと言われたら、普通は頭を抱えるだろう。例えば、時間を数年後に飛ばして、2作目のラストで主人公がどうなったかは直接描かず観客の想像に委ねる、というのが常套手段だと思うのだが、『ジョン・ウィック:パラベラム』はジョン・ウィックが街中の殺し屋から追いかけられる逃走劇から映画を始め、その鬼ごっこの舞台をモロッコにまで広げ、一編の逃走劇として映画を終えるのである。
従って、今作では2作目から前景化した殺し屋組織の設定を更に掘り下げ、ジョン・ウィックの過去もチラ見せしながら、あくまで逃走と戦闘の繰り返しのみで映画を推進していく。1作目で描かれた亡き妻への想い、といったウェットな心理描写は最小限に止め、とにかくドライに、時にはユーモラスに、銃弾と血飛沫の飛び交うフィクショナルな空間で殺し屋たちが躍動する。冒頭で引用されるバスター・キートンの映画の様に、とにかく映画とはアクションの連続で形作られていくべきだ、という信念をここに感じ取る事ができるだろう。
小刻みにリロードを挟み込むリアリスティックなガンアクションとブルース・リーばりのマーシャルアーツ体術を組み合わせた「ガンフー」アクションが本シリーズの見どころだが、様々な小道具を使って敵を殺していく主人公の戦闘スタイルにはジャッキー・チェンの影響も見て取れる。今作でも、刀剣はもちろんズボンのベルト、図書館の本や馬や犬、利用できるものは何でも利用してジョン・ウィックは敵と闘う。彼が手にしたものは全て人を殺す為の危険な凶器へと変化し、彼が足を踏み入れた場所は全て人殺しの為の空間へと変貌するのだ。つまり、映画内のあらゆる時間、あらゆる場所が暴力への予感をはらんでいる事になる。移動と戦闘の繰り返しだけで構成された本作が、観客を全く飽きさせないのも、暴力へのスピーディな移行を可能とする人物造形とそれを可能にするキアヌ・リーヴスの超人的な身体能力に与るところが大きい。
どうやら、シリーズはまだ続く様だが、あまり殺し屋組織の話を膨らませて映画が説明臭くなるのだけは避けて欲しい。
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