覇王YOSHIKI

サニー/32の覇王YOSHIKIのレビュー・感想・評価

サニー/32(2018年製作の映画)
5.0

『現存する狂気に抗う術はあるのか』

誰しもが人を憎み、血が沸騰する思いをしたことがあるだろう。

この作品では、その全てを「抱擁」する。


拉致監禁がモノをいう物語では、被害者が強制的に笑顔にされるシーンに、他者分娩な躍動を覚えることは多い。

冒頭で十二分に満たされるその牧歌的ともいえる感情は、終わりまで満たされ続けることになる。

序論、本論、ケツ論。

楽劇の中に確かにあるべきそれらは、この作品を語るうえでは、まるで申し訳程度に添えられたコーヒースプーンのよう。

しかしそれが、渦巻く人間たちのすぐそばにある狂気を際立たせる。

ここでは一つの背景として、主演である北原里英について語っていこうと思う。

AKB48の研究生として、指原莉乃と肩を並べて芸能界に馳せ参じたあの日。

まさかその頃の自分が、東京からかくも離れた雪山で、女優業を闊歩することになるとは思っていなかっただろう。

彼女はこの作品内で『覚醒』する。排他的狂気を手に入れる。

しかし、彼女の人生でも同じことが起きたのではないかと考える。

それは、この物語の主演として猛進をした結果のみではない。

アイドル時代、苦しみ抜いた一つ一つの経験が無ければ、この境地までは辿り着けなかったはずだ。

遺伝子が生き残るための翼を後世に宿すかのように、サイヤ人が死にかけると戦闘力がアップするかのように。

努力をこしらえた人間が『覚醒』をする瞬間を見れたことに、心が震えた。

これはまだ、北原里英という女優人生の序論に過ぎないのではないだろうか。
覇王YOSHIKI

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