Jeffrey

さびしんぼうのJeffreyのレビュー・感想・評価

さびしんぼう(1985年製作の映画)
4.0
「さびしんぼう」

冒頭、坂上から望遠レンズのファインダー越しに女子高校を眺める少年。名はヒロキ、彼のカメラの目の前に現れた白塗りの少女、二人の絡みが始まる。お寺、すき焼き、オウム、福引、追跡、早朝の再会、フェリー乗り場、お見舞い、手紙、誕生日、湯船の乳子、オルゴール。今、時が経ち…本作は第五十九回キネマ旬報ベスト・テン 第五位になった昭和六〇年に、大林宣彦が瀬戸内の尾道を舞台に、少年の恋をノスタルジックに描き、主人公を監督の分身として、大林の自伝的色彩が強い作品である。東宝が配給制作し、尾道三部作のひとつであり、完結篇である。この度、BDにて発売され購入して再鑑賞したが素晴らしい。いきなり余談だが、寂しん坊と言うのは監督の作った造語で、atg映画の「廃市」をこの題名にしようと考えたり、黒澤明が、絶賛して自分のチーム“黒澤組”のスタッフにも観るように指示した話もある様で、永遠のアイドル、山口百恵や小林聡美、ハニー・レーヌで撮影しようと考えた事もあったみたいだ。

本作は冒頭に、カメラを趣味とする高校生の井上ヒロキが坂の上から望遠レンズのファインダー越しに女子高校を眺めながら、彼のナレーションで物語が語られるファースト・ショットで始まる。さて、物語はフィルムの入っていない一眼レフを首から下げた高校生、ヒロキは放課後の教室でピアノを弾く少女に淡い思いを抱き、密かにさびしんぼうと呼んでいた。そんなヒロキの前に、ピエロのような白塗りでオーバーオールを着た、さびしんぼと名乗る少女が現れた…と簡単に説明するとこんな感じで、懐かしく暖かい尾道の街を背景に描かれた切ない青春物語の傑作である。それにしてもショパンのメロディーがテーマメロディーになり、大林映画には男の子、女の子が多くピアノを弾くなと改めて気付かされた。そーいやatg作品もある大森一樹監督が商店街で撮影されたシーンに妻子と共に家族三人でカメオ出演していたのにはびっくりした。今思えばお笑い芸人の出川哲郎もこの作品のファンと言ってたな、荻野目ちゃんも…


いゃ〜、いい映画です。尾道に行ったこともないのに何故か懐かしさを感じるんだから凄い所なんだろうなと毎回思ってしまう。広島県尾道市向島町津部田、みかん畑の中の坂道を主人公二人が自転車を押して歩くシーンはすごく良かった。あの理科室で三人組がすき焼きを食べてるんだけど、理科の実験に使うようなピンセット(学校の備品)で肉挟んで食ってるの笑える。そこに岸部一徳演じる吉田先生がやってきて、証拠隠滅私が手伝ってやるって言って肉を横取るのもウケる。にしても尾美としのりは大林作品に凄く合うキャストだなと思う。「転校生」「姉妹坂」「ふたり」「時をかける少女」など多くの大林映画に出演しているが、あの…のほほんとした感じがいい。若き日の樹木希林も出演していて、「転校生」で共演した小林聡美が着物姿でやってきて二人が再開するのも素敵。大林監督は尾道の少年時代に映画"別れの曲"に感銘を受け、ショパンの別れの曲を練習するようにしたらしい。

その音楽が全編を彩ってくれている。すごくノスタルジックで良い効果を出している。幾たびか出てくるフェリー乗り場のシーンはすごく風光明媚で綺麗。どってことない街の風景なんだけど、夕日に照らされて橙色に染まる空や海面がキラキラと反射するのは、印象的だ。それに、それまで全く話さなかった無口な父親がヒロキがー人風呂入っているときに、乱入して一緒に入って会話するシーンはすごく印象的だった。ワンショットで長回しされる所。どうでもいいけど、ヒロキの部屋めちゃくちゃ俺好みの雰囲気の最高なセットだった。主題歌の富田靖子のさびしんぼうがこれまた良い。iTunesに配信されてないのが残念である。あのヒロキ演じる岸部一徳が涙を流しながらピアノを弾く際は、大林監督が二人羽織で弾いたらしい。先ほども言ったが、黒澤明がこの作品を好きになった理由のーつに、彼自身がショパンが大好きだと言う点があると思われる。起承転結を追わないような作品が好きな方はお勧めする。コミカルでもり、悲しくも切なく、またノスタルジーで喜劇でもある、映画の良さをふんだんに取り入れた名作だ。
Jeffrey

Jeffrey