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ほえる犬は噛まないのtakamaruのレビュー・感想・評価

ほえる犬は噛まない(2000年製作の映画)
4.1
駅のホーム。チラシでいっぱいの壁を見ている少女の後ろ姿。誰かが背中にぶつかったので、ふっと振り向いた少女にカメラがズーム。それが主役のペ・ドゥナという、このヒロインの登場シーンが本当に素晴らしい。彼女が振り向くシーンが映画の最後にもう1回繰り返されることで気持ちよく映画が締めくくられる仕掛けには、思わず拍手したくなる。限定された空間で展開される小さな話。自分の人生が何だかうまくいっていないストレスを犬にぶつける最低の男を中心にした連続犬失踪事件。よくもまあこんな題材で映画にできるなあと思うのだけど『アタック・ザ・ブロック』と一緒で、団地という狭い空間を巧みに使うことで、独特の凝縮感のある世界が生まれている。面識は無いけど間接的に関係のある人物同士が日常的にすれ違ってたり、追いかけっこするときの人と人との距離感がちょうどよかったりして、小さくまとまった世界ならではの密度の濃い映像のリズムが何とも心地よい。まあ、お話自体は人の気持ちも動物の気持ちも理解できないクズ野郎ユンジュ(イ・ソンジェ)の、自分本位な行動や呆れるほかないアホな行動(コンビニまで100メートルあるかないか賭けをしてムキになって50メートル巻のトイレットペーパーをコロコロ転がす姿に妻が心底幻滅する!とか)を丹念に描いたシニカルなものなんだけどね。好きなのは、団地の屋上で迷い犬(ホームレスに食べられそうになってる!)を見つけたペ・ドゥナが、パーカーのフードをきゅっとしめて、頭ん中にこしらえた自分応援団のエールとともにワンコ救出に向かう一連のシーン。これで団地のヒロインになれるかもしれない!と思って必死にがんばるペ・デゥナが猛烈に可愛い。他にも、どうしようもなくダメな関係になってるユンジュの夫婦関係とまったく対照的な、ペ・ドゥナと友人のコ・スヒ(まだ若い!)との腐れ縁っぽい女の友情が描かれるのもすごくよくて、全体にもう、構成がうまいなあと感心しきりの映画だった。そしてユンジュの罪に対してハッキリした罰を与えないことで、彼が一生罪悪感に苛まれて生きるであろう突き放した終わり方も残酷でよろし。
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