Ryohei

最初で最後のキスのRyoheiのレビュー・感想・評価

最初で最後のキス(2016年製作の映画)
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 イタリアの田舎町に越してきた、ゲイで16歳のロレンツォ。同級生たちは彼をバカにするが、隣に座る少女ブルーも、卑猥な噂を立てられて浮いていた。意気投合した二人は、ロレンツォが惹かれるバスケ部のアントニオ――彼もまた頭の悪さでバカにされていた――を引き込んで、楽しい高校生活を送っていくが……。

 ジャケットがオシャレで気になっていた作品です。ロレンツォ→アントニオ→ブルー、という「三角関係」映画なんですが、青春映画らしく爽やかに描かれてます。最初にベランダから蝶が飛び立った時には「ん?」と思いましたが、なるほど妄想や思い出をミュージカル風に演出しているんですね。いかにもティーンエイジャーな曲とダンスに、『アナと世界の終わり』(2017)を思い出しました。

 ただビターな部分も濃いめで、ゲイのロレンツォだけでなく、アントニオもブルーも、人には言えないような闇を抱えていました。キラキラした前半から、一気に闇が溢れ出す後半への落差に心が痛いですね。『ブックスマート』(2019)ではレズのエイミーに対しても周囲の振る舞いは比較的寛容に描かれてましたが、本作の方が現実味を帯びているでしょう。

 実話を基にした衝撃的な「事件」が起き、ブルーの儚い妄想と後悔で本作は幕を閉じますが、なんとも苦々しい気分になります。もしも過去が変えられるのなら、ブルーが、アントニオが、ロレンツォが、彼らの家族が、学校の同級生が、先生が、どんな行動を取ればよかったのか。そんなの分からないですし、なるようにしかならない気がします。

 それに冒頭でロレンツォが越して来る前に、ブルーとアントニオは会っているにもかかわらず、挨拶も交わしませんでした。「たまたま」ロレンツォが来たことで、三人は出会い、あんなに楽しい時間を過ごすことができたし、あんな「事件」に行き着く結果になってしまった。「誰のせい」とはっきり言えたら楽なんでしょうけど、現実的には曖昧で苦しいことの方が多いのかもしれませんね。
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