やまだ

リズと青い鳥のやまだのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.0
かなり平坦に描かれる激情

作品中に登場する同名作品のストーリーと、高校卒業前最後のコンクールを控えた二人の生徒の心情を描いています。
全体を通してだれも大きな声を出さないし号泣しないし(一部を除く)走らないし、と
かなり平坦な展開です。フランス映画みたいで個人的には大好きです。

しかしその心情の変化やその時何を思ったのか、という点は完成度の高いグラフィックで描かれています。
まぶたのわずかな動き、瞳の煌めき、握る手、髪の揺れ。どれをとっても「あぁ、今はこんな気持なのかな?」と思わせてくれます。
そのため平坦ながらも「つまりはどういうことなんだ?」と思わずに鑑賞できました。

ストーリーも高校生というまだゆらぎのある年頃の不安定さが綺麗に描かれていたと思います。
対象的な二人である「リズ」と「青い鳥」というそれぞれの関係性をずっと維持したまま展開されているのは上手だなぁと思いました。
演奏曲でもあるので終始みぞれとのぞみは「リズ」と「青い鳥」を意識します(特にみぞれ)
それと自分たちの現状に対して考えることが混ざり合い、同名作品のわかりやすいストーリーと相まって単純ながら深く考えさせられるストーリーでした。

後半へいくにつれてゆらぎだす二人の感情は決して平坦なものではありませんでした。
これほど劇的なものでなくても、似たような経験を高校時代にした自分としては、静かに描かれてはいましたが激しいものを感じました。

全体を通して「アニメだから表現できた作品」だと感じました。
アニメ的な少しオーバーな演出やセリフ、光やアングル。それらはすべてアニメだからこそ真っ直ぐに伝わるものだと思います。
フィクションであっても、もしこれが実写の映画として同じ内容で作られたとしたら、おそらくは実写に含まれる「リアル」に気が取られ、リアリティのない青春映画になっていたと思います。

実写映画を非難したいわけではなく、実写映画は実写映画として作る必要があって、アニメ的演出は持ち込みにくいと僕は考えています。
そして今作は反対にそんな実写に持ち込みにくい要素を最大限活かしてこの映画を作り上げたことが本当にすごいと感じました。

静かなストーリー、展開が苦手な人は本当に苦手だと思いますし「だからなんだよ」って人もいると思いますが
個人的には非常に情緒あふれる作品だと思いました。
良い映画だと思います。おすすめです。
やまだ

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