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天使は白をまとうのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

天使は白をまとう(2017年製作の映画)
4.6
@東京フィルメックス

今年の女性監督の作品ベスト5に入る秀作。あらゆるシーンが象徴的に現代の中国の−−−−のみならずアジアの−−−−女性への抑圧の構造を指し示している。なにしろ浜辺に立っているマリリン・モンローの巨大なハリボテの像(地下鉄の送風口に立ってスカートを翻している場面)からスタートするのだ。いたいけな10代の女の子たちの運命はこれからどう展開するのか、はらはらとしながら息もつけない思いで見入った。

ヒロインは3年前に故郷から家出、さまざまな街を彷徨ってこの海辺のリゾート地のホテルで不法労働者としてかろうじて糊口をしのいでいる。18歳と偽っているが、たぶん16歳、誕生日も知らないという生い立ち(彼女はおそらくは無戸籍児なのだろう。中国では未婚あるいは非婚の母親から生まれた子は罰金を支払わなければならないので、そんな背景も想像される)。

そのホテルに12歳の少女2人を連れ込んだ男がいて、彼女がその夜の性暴力事件のただ一人の目撃者となった。ヒロインは身分証明書を手に入れるためにその男から金をせしめようとするのだが・・・・・・。加害者は警察当局の幹部であり、被害者の少女に寄り添おうとする女性弁護士の奮闘も虚しく、事件はもみ消されてしまうことになる。

自身に降りかかる圧倒的な事態を前に、自らのなけなしの自由とささやかな尊厳を手放すまいとして懸命に生き延びる道を探りあてようと行動していくヒロインの造型が際立っている。やはり圧倒的に無力な存在ながら黙って立ち尽くして全身で抗っている被害者のひとりである少女も強烈な印象を残す。ふたりとも奈良美智描くところの女の子を彷彿とさせる眼をしているのだ。彼女たちの聡明さは大人たちの振る舞いの裏側を見抜く。その睨みつけるような眼差しは、彼女たちの負けまいとする意志と内に秘めている強さの現れなのだと信じたい。

中国インディペンデント映画の名作を製作してきたというヴィヴィアン・チュウ脚本・監督作品。彼女はニューヨークで学んだ後、中国に戻り、プロデューサーとしていくつかの作品を世界の映画祭に送り出し、この『天使は白をまとう』が2本目の監督作品。中国では今春から当局が許可した作品しか国際映画祭に出品できないことになったが、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたこともあって東京フィルメックスでの上映も可能になったらしい。

東京フィルメックスでは、李玉監督『ブッダ・マウンテン』で印象に残っていた大女優シルヴィア・チャンの主演・監督作品『相愛相親』に続けて鑑賞し、同時代の中国を垣間見せてくれる見応えのある作品に出会えて充実した一日だった。
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