半兵衛

やくざ刑罰史 私刑(リンチ)!の半兵衛のレビュー・感想・評価

3.6
菅原文太の渋い声によるオープニングのナレーション、残虐な刑を受ける人達(ドラマ本編とは一切関係がないのが潔い)が次々と登場するオープニングクレジットによる序盤は石井輝男監督らしいハッタリを効かせた演出が決まっていてテンションが高まる。

この時期続々と作られた東映残虐路線の一本ではあるが、他の作品と違いオムニバス形式の三話いずれもストーリーが作られているのでいつもの見世物優先とは違った見ごたえのあるドラマがそれなりに楽しめる。

ドラマと残虐シーンのバランスが最も良好なのが第一話の江戸時代編で、見栄ばかり気にするせこい根性の親分のために苦労する真面目な子分(大友柳太朗)が日頃仲の良い真面目な弟分(菅原文太)のとある不始末のより親分のひどい仕打ちにあったことをきっかけに怒りが爆発する様が描かれる。石井輝男作品では珍しい菅井一郎の小心者のダメ親分や石橋蓮司のセコい悪党ぶりが憎々しさを煽り、その分後半の悪党成敗のカタルシスを倍増させる。大暴れする大友はチャンバラスターだけあってさすがの迫力で、親分に自分の目玉をえぐり取って絶縁状替わりに叩きつけるシーンはグロいのにカッコいい。この作品がデビューとなった宮内洋の初々しい演技も見所。

現代編の三話はギャングの抗争と内紛劇を私刑の数々とともに描かれるのだが、こちらは肝心のギャングたちの駆け引きが大雑把な感じなので淡白な印象に。そもそも主人公である謎の殺し屋・吉田輝雄の目的が場当たり過ぎて一切不明なのが不気味なので感情移入しづらしいのが…。あと高英男(ゴケミドロの人)が下手くそすぎるヨーヨープレイをしているのはギャグとしか思えない。残虐プレイの方は車に人ごと乗せてスクラップにしたりセメントで固めて海に放り込んだり(本当に役者にセメントをかけている)するのは良いのだけれど、拳銃の撃ち合いでガスタンクに当たり爆発したり、ヘリコプターで10メートルくらい下の地面にいる人を吊るしたりするのは漫画チック過ぎてちょっと醒めるかも。

個人的に好きなのは第二話の大正編で、刑罰の方は小便を対象の人にひっかけてその人を蚊の多い場所に放置しておくという他愛のないもの(実際やったら日本脳炎にかかる可能性が大だけれど)だけどその分ドラマの方に主軸が置かれている。親分の命令で敵対する親分を斬り三年刑務所にいた主人公の組員(大木実)と彼の恋人だったが訳あって主人公と敵対する組織のヤクザと付き合っている女(橘ますみ)、その事情を知らずに女と付き合った肺病持ちの組員(山本豊三)、この三角関係を30分足らずという時間でスピーディーにそれでいて風格をもって演出する様は石井輝男監督の師匠でもある成瀬巳喜男や清水宏を彷彿とさせる。そんな三角関係に自分なりにけじめをつけるため、橘と山本を助ける大木の格好良さに痺れる。ちなみに小規模ながら大正時代らしいセットをきちんと作る美術や小道具の仕事も素晴らしく、映画館の看板に立花貞二郎の『カチューシャ』が置かれているのには唸ってしまった。この作品は実際にあった作品で、女優がいなかった当時女形の役者がヒロインのカチューシャを演じて大ヒットした経緯がある。

第三話のラストは意味不明ながらも、カッコいいショットによって締め括られるので何だか良い作品を見た気になる。
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