糸くず

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~の糸くずのレビュー・感想・評価

3.7
行きすぎた正義の暴走を描いた、近年のクレヨンしんちゃんの劇場版でも最も重量級の作品。

食べた人間を病みつきにさせ、さらには凶暴化させる「ブラックパンダラーメン」の横暴は、再開発による住民への圧力と街の画一化を痛烈に批判しており、それだけでも見応えたっぷりなのだが、この映画の核心は第二の悪役が登場してからにある。

「ブラックパンダ」という巨大な悪を倒すことに執念を燃やすあまり、正しいことに固執してしまい、自らの正しさから外れた人々を次々と制裁していくもう一つの悪。求めたものは正義だったのにもかかわらず、その人が作り出す風景もまたディストピアなのである。正しさが一つに定まることのない世界に生きるわたしたちにとって、きわめてリアルな問題だろう。

「クレしん版燃えるカンフー映画」くらいの軽い期待を簡単に裏切り、そして粉々に打ち砕くレベルのインパクトを持った映画であることは間違いない。

しかし、この映画は、自分たちが提起した問いにちゃんと答えているだろうか。

この映画のラストは、凝り固まった「正義」に対して「おバカ」で応える。おバカになる余裕こそがカチカチになった心をぷにぷににする。

しかし、おバカになる余裕を得るにはどうすればいいのか。そこには何も触れない。ただ「おバカであれ」というメッセージが放たれ、「お花畑」の上でハッピーエンドを迎える。

ラストの前の段階で、ブラックパンダラーメンの毒に対する特効薬がないことに対して、マサオくんが「地道にコツコツとやっていくしかない」と言う。ぷにぷに拳の師匠に最初に弟子入りしたにもかかわらず、いつまで経っても奥義を一つも習得できないマサオくん。そんなカチカチの心を持った彼だからこそたどり着ける答えだ。特効薬=明確な答えがない以上、「地道にコツコツと」しかないのである。

だが、映画はマサオくんの言葉をなかったことにするかのように、一つのアクションですべてが元通りになる。これでは、マサオくんが示した道の先の光景が見えない。

おバカには世界を救う力があるかもしれない。しかし、おバカだけでは世界は救えないはずだ。おバカは物事に柔軟に立ち向かうための心構えの一つにすぎない。

わたしたちは答えのない時代を生きている。それはもはや自明のことである。しんちゃんの「おバカ」は強力な武器ではあるけれども、カスカベ防衛隊のメンバーはしんちゃんだけではない。クレヨンしんちゃんの映画で、「おバカだけでは救えない世界がある」と言ったって別に悪くないはずだ。
糸くず

糸くず